Chapter11(3/6ページ目)
すろーらいふと港の生活、そして用事(後)
僕は、大通りのとあるカフェにいた。
港町のカフェはこんな感じだろうと思っていたが、まさにそうだった。
部屋の中は落ち着いていて、窓の外には海が見えた。
海は穏やかに波打っていて、何隻もの船が往来していた。
僕はオレンジオイルを注文した。
僕の好物だ。
「はい、どうぞ。オレンジオイルです」
「ん、ありがとうございます」
僕はオイルを一気飲みした。
店員はそんな僕を見て、クスッっと笑いそうになりながら言った。
「あなたって若いのに飲みっぷりがいいのね。驚いちゃった」
「はい、疲れていたので・・・」
「あなたは旅の人?」
「いえ、レーサーです。まだ駆け出しですけどね」
「そうなの? それじゃ一気飲みも頷けるわ。ここには何をしにきたの?」
僕は、一瞬迷った後答えた。
「ちょっと呼ばれたんです。明日エスカルゴカフェに来てくれって」
「エ・・・エスカルゴカフェ・・・?」
店員はギョッとしたように言った。周りのチョロQもチラッとこちらを見たような気がした。
「エスカルゴカフェってどんなところなんですか?」
懸命にも、僕は尋ねてみた。
そういえば、まだこの街のどこにあるか聞いていなかった。
ちょっとでも情報を集めないと、兄さんに怒られちゃう・・・
店員は僕の問いに答えたが、ヒソヒソ声で近づかないと聞こえなかった。
「エスカルゴカフェはね、この街のギャングとか、ちょっとしたグループとか、そういったのが集まる場所なの。あなたを呼んだのって、悪い人?」
僕は考えてみた。
兄さんは悪戯はするけど、悪いことはしないと思った。
「いえ、悪い人では無いです。僕の知っているチョロQです」
「そうなの・・・。でも、くれぐれも気を付けて。からまれたりでもしたら大変よ。レーサーと知れたらお金をまきあげられるかもしれないわ。レーサーは高収入の仕事ですもの・・・」
「あの、エスカルゴカフェって何処にあるのでしょうか・・・」
僕は本題に入った。
これを聞いておかないと、ここに来た意味が無い。
「あぁ、言ってもいいのかしら。でもいいわ。それがあなたの望みならば・・・エスカルゴカフェはね、海に一番近い道があるでしょ。ノースアンブレラロードよ。そこの道をずっとQカラー王国のほうに進んで、門をくぐったらすぐよ。右のほうに、かたつむりの形をした看板があるわ。すぐに分かると思う。でも、本当に行く気なの?」
「はい、大丈夫です。心配しないで下さい」
「それならいいけど・・・頑張って」
僕はお礼を言ってからカフェを出た。
オレンジオイルはまたもやサービスで無料だった。
もしかしたら、頑張ってという気持ちなのかもしれないけど。
でも、困ったぞ。
兄さんが待ち合わせ場所に選んだエスカルゴカフェ、どうやら柄の悪い連中が集まる場所のようだ。
僕は店員さんに自信たっぷりに返事をしたけど、今考えてみるとちょっと怖かった。
自信がなくなってきた・・・。
でも、きっと大丈夫だ。
兄さんが一緒にいるんだし。
あまり深く考えないようにしよう。
悪く考えると、本当に悪い方向へと向かっちゃうから・・・
何も用が無いときは時間がゆっくりと流れる。
用があったり、心配事が近づいてくると時間は歯止め無く進んでしまう。
まさに、そんな気分だ。
僕はそう思った。
さっきまで――つまり、暇だったとき――はゆっくり時間が流れていたのに、エスカルゴカフェのことを心配している今は時間があっという間に流れていく。
さっきまで太陽が出ていたのに、もう沈んじゃった・・・。
まるで、時間が僕を弄んでいるようだ。
まるで、誰かが時間のダムを開けてしまったかのようだ。
・・・はぁ。
それより、今夜泊まる場所を探さないといけない。
夕べの出来事からして、Q'sファクトリーに泊まるのはちょっと気まずい。
だったら普通の宿とかを探さないといけないけど、お金が足りるかな・・・。
とにかく、この街で夜に外を出回るのは良くない気がするんだ。
誰かが言ったわけじゃないけど、何だかそんな気がした。
知り合いとかがいればいいんだけど・・・。
勿論、兄さんはこの街のどこかにいるんだろうけど、時間の前に会うのは失礼だ。
何か準備をしているのかも知れないし。
「・・・そうだ、いいこと思いついた!」
我ながらいい思い付きかも!
そう、さっきのカフェの店員さんのところとか・・・僕のことを心配してくれたし。
もしかしたら、受け入れてもらえるかもしれない。
僕は、さっきのカフェへと行く道に戻った。
夜になると、昼とはまた違う景色が見える。
ライトアップされた港町は、思っていた以上に素敵だった。
僕のイメージしていた、というか、イメージ付けられていったこの町の印象とは違う。
今まで、ずっと危なくて寂しげな街をイメージしていたけど、実際は違かった。
街の住民は親切だったし、結構栄えていて、みんな楽しそうだ。
(この町で暮らすのも、案外いいかも・・・?)
そう思ってしまっても無理は無かったんだ。
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最終更新日(11.04.21)
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