Chapter10(3/4ページ目)
すろーらいふと港の生活、そして用事(前)
今度こそ本当に下山する。
アグネスは、下を見てみた。
――何も見えない。
見えるのは、自分の足元と雲のカーペットだけだった。
初めてココに来たときと比べると感じ方が変わっていた。
びくびくしながらもなんとか7合目まで来た。
アグネスは、少し休憩していた。
「はぁ、下りも意外と疲れるんだな・・・」
その時。
「ハイイイィヤアアアァァァーーーーッッッッ!」
「?!?」
「そこのお前!」
「・・・え?!何?」
「俺と勝負しろ!」
「え〜、疲れたからやめとく・・・」
「問答無用だ!――こっちにこい」
アグネスは渋々、声のする方向へと向かった。
そこは、少し広めの道で、所々にデコボコがあるものの、木や岩は無く、平坦な下り坂だった。
そして、そこに一人(一台)のチョロQがいた。
アグネスと同じボディ、同じカラー。
でも正反対な性格。
アグネスは、開いた口が塞がらないかのよう。
「――ぼ、僕の・・・そっくりさん?――なはずないか。世の中広いから、こんなこともあるんだろうな。ところで、何の用事かな?」
「さっき言っただろ!俺と勝負するんだ。――まったく・・・『昔から』物覚えの悪い奴だな」
「そんなはずな――『昔から?』・・・」
「まあ、これはどうでもいい。とりあえず、ルールを説明する。この坂を下る。それだけだ」
「えっ。・・・そういえば、ここは冬場、スキー場にな――」
言いかけたが、遮られた。
「そうだ。いわゆるダートスキーだ。これは下のリュウム湿原まで続いている。早くそこに着いたほうが勝ち。負けたら、5000勝ったほうに支払うのはどうだ」
「いいんじゃないかな、ところで――」
「さ、スタートラインに着けよ」
「いや、あの・・・はあ、仕方ないか・・・」
「よし、それじゃ、俺の合図でスタートだ。一番下の、リフトの乗り場の近くにフラッグが立ててあるから、それを先にとるんだ。下りのコースしかないからな。作戦は勝手に考えろ」
「うん、オーケーだ」
「じゃ、いくぜ・・・3・・・2・・・1・・・GO!」
2台のチョロ!が麓を目指して駆け出す。
まるで、2本の矢のように。
まるで、2組の青い稲妻のように・・・
――と言いたいが、まだレース界では新人扱いのアグネスと戦うのはやはり同じようなレベルのはず。
そこまで速くは無い。
途中、アグネスは岩にぶつかり、大幅なタイムロスをした。
そのまま差は縮まらず、奴が先にゴールした。
「じゃ、俺の勝ちだな。5000Gもらおう」
アグネスは、アーパスさんにもらった10000Gのバイト代から5000Gを渡した。
「ほら、やるよ(せっかく働いたのに・・・)――ところで、君って――」
「じゃ、また会うかもな、ハッハッハ!」
「・・・」
奴はリュウム湿原の中へと消えていった。
奴、一体誰なのか。
アグネスは、正体が分かりそうな気がした。
というのも、あの熱血漢・・・という程ではないか。
あの馬鹿・・・でもないだろうな。
とにかく、近い感じがする。
ただ、はっきり言える事がある。
それは、兄弟ではないということだ。
僕の兄弟で同じ色はいない。
車種も微妙に違う。
でも奴は、どちらも同じだった。
それは、僕が12歳のとき。
兄さんが家を出て行ったんだ。
「俺は世界一の男になる!」って。
それ以来、姿を見せていない。
それから6年も経ったのだから、ボディを変えてもおかしくはないが、兄さんは不器用な人じゃない。
ちょっと単純なところはあるけど、優しい人(チョロQ)だ。
だから、さっきのは多分違う奴だろう。
「――まあ、考えていてもらちが明かない。とりあえず、家に戻ろう」
僕は帰路に就こうとした。
でも、その前に何となく登山者ノートを見てみた。
すると・・・
「一番新しいのは・・・ブラック・マリア?行き違いになったのかな」
ノートの一番下にはブラック・マリアの名前が書かれていた。
その上にはあのセカセカとした秘書のエスペルの名前がある。
どうせなら、もう少しだけ上にいればよかったな・・・
そうすれば、まだマリアさんに会えるし、話も出来る。
「――でもいいや。その内また会えるよね。今度こそ帰ろう」
僕は家に帰ることにした。
しかし、家では知らせが待っていたのだ。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい、アグネス。ちょっとは逞しくなったかしら?」
「う〜ん、どうだろうね」
「ところで、リオンから手紙が来ているわよ」
「兄さんから?何なの?」
「さあ、あなた宛だったから私は見ていないわ」
「分かった、有難う」
アグネスは自分の部屋に戻って、手紙の封を開けた。
わが弟、アグネスへ
まあ、なんだ、えっと・・・久しぶりだよな。
急に手紙を送って悪いな。
実は、ちょっと話したいことがあるんだ。
ここでは書けない。
こっちの事情があるからな。
もし5月10日が暇だったら、アンブレラポートのエスカルゴカフェに13時に来れないか。
もし無理でも、返事はいらないからな。
リオン
・・・。
・・・。
『話したいこと』・・・いったい何なんだろう。
もしかして、やっぱりあれは兄さんだったのか?
とりあえず、行ってみよう。
次の日がレースの日だけど、船を使えばすぐに着く。
アンブレラポートといえば、船がよく出入りしている。
ハセガワ3131やバラートがチョロQワールドに入るときも、アンブレラポートから来たらしい。
「――まあ、善は急げと言うし、行ってみるか」
「母さん、ちょっとアンブレラポートに入ってくる。兄さんにそこに来てくれって言われたんだ」
「アンブレラポートねぇ・・・あそこってパッとしない町なのよね。あと、治安も悪いらしいから、気をつけてね」
「えっ、そうなの?」
「ええ、ギャングなんかもいるそうだから、気を付けないと・・・あっ、ごめんなさい、あなたはそういうのは苦手だったのよね」
僕は、銃とかホラーとかサスペンスとか、そういうものが苦手なんだ。
「じゃ、行ってくる・・・」
「・・・頑張って」
僕と母さんは、言葉を少なめに交わし、そしてアンブレラポートへ向かった。
(さて、アンブレラポートは・・・地下鉄が通っていないから、ゼンマイスポーツランドからチョロQ鉄道に乗ればいいのか)
僕は、ゼンマイスポーツランドへ向かった。
マウンテン・マウンテンに暫くいたせいか、パワーや持久力が上がったような気がする。
僕は、草原の一本道を今までに無い猛スピードで駆けていった。
[1]前項(2/4)
[3]次項(4/4)
[*]戻る(チョロQ 最速伝説?)
[0]トップ
最終更新日(09.07.20)
ページ作成