Chapter18(3/4ページ目)
北の研究所

コルテックスは内陸へと急いで向かう。

細いトルク音が甲高く辺りに響く。

ただっ広い真っ白な雪原を、機械の黄色いキツネが駆けている。

キツネはそのまま森へと入り、甲高いトルク音もやがて森の中に消えていった。

コルテックスは森で幾らか走らせると、キツネを停めた。

「さて、そろそろかな・・・」

そう言いながら徐に光線銃を取り出した。

エネルギーは十分にある。

充填する必要は無さそうだ。

確かめると、服の中にしまう。

光線銃のエネルギーが仄かに温かい。

カイロ代わりに使える。

もう一度外套をはおり直し、コルテックスはキツネから降りた。

辺りは結構静かだ。

雪の上を足で踏む「サクッ」とか「ザッ」とかいう音しかしない。

森はこれから来るであろう春を待ちわびて、じっとしているのだ。

これを過ぎれば、暖かい春がやって来る。

コルテックスは、期待と不安の両方の気持ちを包容しつつ歩き始めた。

この先にいるのか?

協力は得られるか?

それとも・・・?

どんどん進むと、やがて白と灰色の中に新しい色が見えてきた。

思えば、辺りの雪もだんだん無くなってきて、緑になって――草が元気に生えて――いる。

そして、その地帯の中央には、背の高い建物がある。

(ただ、コルテックス城ほどではない)

天辺はアンテナのようになっていて、その辺りの空間が少し歪んでいるようだ。

「・・・この辺の時間を操作しているな」

コルテックスはアンテナを見ながら呟いた。

そして、一先ず外套を脱いだ。

こんなところでは、暑くて着ていられない。

外套を脱げば、春の朗らかな陽気が、楽しげに体をつついてくる。

心なしか、気分も高揚してくるような気がする。

ただ、心の芯まで高揚しなかった。

いや、してはいけない。

・・・でも、会えるのならば――

ここにいるはずなんだ。

それは間違いない。

コルテックスは、中々前に足を進めることが出来なかった。

時間が焦れったく過ぎていく。

いや、操作されている。

周りの「操作されていない」空間の雪は、まるでポスターのように止まっている。

(自分のいる場所は、時間が早く過ぎているんだ)

コルテックスは悟った。

どうやら、時間を十分に取って・・・

「紳士に――」

コルテックスが呟く。

その目は、建物の出入口を油断無く睨んでいる。

「――エレガントに、話し合おうじゃありませんか、ドクター・コルテックス?」

その目線の先に、一人の男が現れた。

細身ですらっとした体型。

でも、何か身に付けているようで肩のあたりが大きく見える。

顔は真っ青で、どこかの星人を思い起こす。

気取った足取りで、真っ直ぐにコルテックスのところへ向かう。

いつもの、時計だらけのウェアー。

エヌ・トロピーの登場だ。

コルテックスは、懐に手を入れた。

指先で、ほんのりと温かいトリガーを探る。

「トロピー、貴様・・・!」

「ウェイト! ここでプラズマ銃を使うのはノンノンね、ワタシが許しませんよ」

エヌ・トロピーは片手を突き出し、コルテックスに制止を要求した。

「あぁ、少なくとも、今すぐに使うつもりはないわ、その口から聞き出すまではな」

コルテックスは、プラズマ光線銃を握っていた手を放し、懐から出した。

トロピーはコルテックスに近付き、手を差し出した。

「ともかく、お久し振りです、ドクター。まずはミーのラボにインしましょう」

トロピーは少し屈み、コルテックスは背伸びをして握手を交わした。

コルテックスは極端に背が低いし、トロピーは逆に高い。

まるで親子だ、奇妙な姿だが。

この二人と言えば、同じ目的を持つ、つまり対立関係だ。

二人ともウカウカの下に着き、世界制服をしようと日進月歩で研究を続ける。

コルテックスが科学者とすれば、トロピーは物理学者と言えばいいだろうか。

時間の研究に勤しむ彼は、時間をある程度操れる。

今だって、辺りの時間を春にして、その状態で他の時間を止めている。

タイムワープを使えば、時間も場所も簡単に移動できる。

(ただ、この分野では何回か失敗している)

異次元との繋がりも発見し、エヌ・トランスという催眠術師を手下にしている。

こんな数々の経験あってか、ウカウカの信頼をコルテックスよりは得ているらしい。

形式的な地位はコルテックスのほうが上だが、実質的な地位はほぼ対等だ。

トロピーもそのつもりでいて、コルテックスに従うこともあるが、上の存在としては見ていない。

だから、ひれ伏すようなことはしないし、歯向かえるものなら歯向かうかもしれない。

云わば「ライバル」に近い存在だから。

それでも、互いの才能――コルテックスの意地悪さと武器開発力、トロピーのスマートさと速度・時間物理力――は自分で補完出来ないから、協力するときはする。

ただ単純に、仲が悪い、と言うのが一番しっくりと来る。

そんな関係にある二人が、トロピーの研究所に消えていった。

研究所の周りは時間操作によって暖かく、さらに外側は時間が殆ど止まっている(ように見える)。

一見のどかであるが、奇妙な光景だ。

嵐の前にある静寂だ。

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