Chapter11(2/4ページ目)
その頃あの人は
「う〜ん、何だか頭が痛いし、それに重いな・・・何もしないというのも疲れるものだ」
いつの間にか、昼夜逆転していたようだ。
やっぱり、陽の光を浴びていないとダメなのかも。
潜水艦は微妙な燐光を放つ海の中でじっとしていたが、そろそろ行動を起こさないと、ただただ時間を浪費するばかりになってしまう。
ただ、コルテックスは何も知らない。
今、クラッシュの家には誰もいない。
辺りにいるのは、無数のピカール(今日は静かなので、心なしか数も多い気がする)ばかり。
コルテックスは何も知らない。
ジャッキーが今どこにいるのか。
勿論、いつの間にかクラッシュとジャッキーが意気投合している、ということも。
コルテックスは何も知らない。
クランチが、自我を失いかけていること。
ひとりぼっち、孤独で苦しんでいる――。
コルテックスは何も知らない。
エヌ・ジン・・・。
「ええい!ワシとアイツとのことはほっといてくれ!」
おっと、これは失敬。
とにかく、何も知らないから何もできず、コルテックスは歯がゆい思いをしていた。
「こんなことなら、ニーナを返さなければ良かった。でも――ああ!過去を振り返っていてばかりでは何もできん!」
・・・。
反響が泡沫のごとく消えていき、あとから耳に入るのは、潜水艦にやさしく噛みつく波の音だ。
叫んで、少し気を晴らすことができたのだろうか。
「ふぅ」と小さな溜め息をつく。
「よし、ぼちぼちいきますかっ!」
今のコルテックスは、ここ最近ではかなりテンションが上昇している。
ほとんど0からのスタートだから、意気込みもすごいのかもしれない。
間も無く、潜水艦は鈍い音を水の中に波紋させながらゆっくりと上昇していった。
バタン!
潜水艦のハッチが景気良く開いた。
ハッチは分厚い鉄の塊だが、エヌ・ジンの技術力が光り、軽い力で開くようになっていた。
コルテックスは、久々に外気にとくと触れた。
潮風は、年々と少なくなってきている髪の毛を遊ばせた。
「おっ・・・」
今夜は満月・・・いや、その少し前かもしれない。
どちらにしても、海の上で凛々と輝く月は素敵だった。
「なんか――いや、気のせいか・・・」
コルテックスは何かに気付いたようだ。
「ん?やっぱり気のせいじゃない。なんだ、あれは?」
海の上を静かに漂っていた「あれ」は、引き寄せられるように潜水艦に近づいてきた。
よくよく見れば、小さな紙切れだ。
文字は――海水に浸かっていたから――かなり滲んでいる。
「誰かが落としたのだろうな。どれどれ・・・」
紙は潜水艦の近くまでやってきて、コルテックスに拾われた。
コルテックスは、期待のこもった表情で何が書かれているのか見ようとした。
というのも、今は藁にもすがるような思いで情報を欲しがっていたのだ。
そうでなくても、こういう、ちょっとしたものが研究のヒントになることはよくある。
落とし物は、まさにアイディアの宝庫。
それを、今のコルテックスが見逃すはずは無い、あり得なかった。
「へへっ。いいものを拾ったな、これは・・・」
疲れ気味の顔に、月の光が優しく照らされた。
それにしても、どれだけ海に浸かっていたのだろう。
紙はフニャフニャになっていて、今にも破れてしまいそう。
それでも、書いてある文字はそれほど欠損してはいないようだ。
勿論、もう滲んでいた文字も多少はあったが、大部分は普通に解読することが出来た。
「どれ、なにが書いてあるのか――なっ・・・!」
そこには、こう書いてあった、、、
『N.――殿へ
もう決めた。拙者は――する、すまないとは思うが、宜しく。
N.GIN』
「これは・・・」
コルテックスにとってみれば、まさかまさかの展開だ。
まさか、エヌ・ジンの手紙だったとは。
まさか、気分のいいときにこんなものがくるとは。
二重の意味で『まさか』の攻撃を受けたコルテックスは、文字通り面食らってしまい、顔面蒼白、そして劇画調のラインが見えてきそうだった。
「――まさか、エヌ・ジンの書いたものだったとは・・・しかし――」
コルテックスは、何か気になることがあるようだ。
「エヌ・ジン、お前は・・・何をした・・・?」
手紙をよくよく見れば、
『拙者は――する』
とあるが、実際に何をする、またはしたのかは全く分からない。
ここが滲んでいなければ!
「くそっ、アイツはなんの為にこれを・・・」
歯がゆい感覚がコルテックスを襲う。
そして、ひとつの考えがコルテックスの頭の中で浮かび上がってきた。
「まさか・・・自殺?」
本当にまさかと言いたくなる。
でも、たったこれだけの理由で自殺してしまうというのも考えものだ。
(そもそも、『あの』エヌ・ジンが自殺なんかするか?バンディクーめがワシの世界制服を応援しに来るほうが現実的だっての・・・)
(でも、ワシの予想通りだとしたら?絶対に無いとは言い切れん――あっ)
コルテックスは突然思い出したかのように、携帯電話を取り出した。
しかし・・・。
「な・・・?ん・・・?」
・・・。
・・・。
「でじゃゃゃぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!!」
その声は月夜の空気をかき乱し、何回もこだました。
コルテックスは、狂った電池仕掛けのおもちゃのように、携帯のボタンを押しまくっていた。
画面に『NO SERVICE(圏外)』と表示されていたわけではない。
というより、画面はうんともすんとも言わなかった。そう、携帯は電池切れになっていた。
「くそっ!充電器はエヌ・ジンがみんな持っているし、作るにしても今は材料がない・・・」
連絡手段は失われた。
今度こそ、本当にひとりぼっちになったような気がした。
コルテックスはとぼとぼと潜水艦の中に戻り、軽いはずのハッチを、さも重たそうに閉めた。
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最終更新日(11.04.13)
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