Chapter10(5/6ページ目)
シカゴへ

さざ波は何事もなく、何事にも無頓着だと言うようにその営みを続ける。

「あー、寒い・・・オイラにはどうも耐えられないな、この空気」

「ど、どうかんだじょ〜・・・」

クラッシュとジャッキーには、ずっと飛行を続けるのが辛いようだった。

まあ、寒い中、しかも高度なのだから仕方がないのかもしれないが。

空気は張りつめ、それを切り裂くように二機が突っ切って行く。

(くそっ、ボクちんはいつまでこんな辛いことをしなくちゃいけないわけ?――って、あれは・・・)

ジャッキーがふと下を見ると。

「流氷・・・?それに、シロクマ?」

微かであるが、確かに海の上に一点、二点と、白いものが浮いている。

幾つかはプカプカと漂う白いものを、引っ掻き回すように――まるで遊んでいるかのように――輝いている。

「あ〜あ、地上に戻りたいじょー・・・でも、今は降りたくないじょ・・・」

ジャッキーはそんなことを思いながら、クラッシュの後を追――おうとしたが。

「クラッシュ、応答してくれだじょー!」

無線機に向かって叫んだ。

雪山で遭難した後に救助隊を見つけたかのようだ。

実際、状況が状況だったから、端から見れば誰の目にもそう見えてしまうと思う。

とにかく、極寒の世界の中叫ぶジャッキーの声は断末魔の声のようにも聞こえた。

『ど、どうしたの?』

なんとか返事が聞こえてくる。

向こうも大分凍えているのだろう。

「問題。北とかけて、シロクマと解く。その心はなんだじょー?」

突然、謎かけを出した。

「なんで今そんなこと聞くのっ!」

クラッシュは半分怒り、半分泣きべそをかいたような声で返事を返してきた。

オレンジバロンはグラグラと横に大きく揺れている。

「下を見るじょー!ほら、ちょうど1キロほど前方――」

「オイラ、なんにも見えないんだけど・・・ただ真っ白、それだけ」

「それが問題だじょー。さすがに、シカゴにこんな雪はないはずだじょー」

「オイラが進路を間違えたって言いたいわけ?」

少しトゲが入ったような、冷たい感じの返事が返ってきた。

そのせいでジャッキーは少し慌てた。

口はうまいはずなのに、相手を怒らせてしまった・・・。

(う〜ん、マズイことを言っちゃったじょ。・・・でも怒っているのを見るのはなんかおかしいじょー・・・プププ・・・)

「ジャック!」

クラッシュが叫んだ。

「え?ボクちんはジャッキ――あ・・・」

「どうしたの?」

「(そういえば、ジャックで通しているんだったじょ・・・)・・・あ・・・いや、なんでもないじょー、クラッシュ。キシシシ・・・」

「ふ〜ん――それより!」

もう一度クラッシュが叫んだ。

バンディクーの叫び声はどうもヒステリックな感じで、キンキンと耳に響く。

「――先に言ってくれたら嬉しかったよ」

「うん、、、」

「そのまま進んでいたらさ、――」

「――二人とも氷漬けだじょー」

ジャッキーが、尻切れトンボになったクラッシュの言葉を引き継いだ。

そして、二人でその氷漬けになった姿を想像してみた。

そのまま飛んでいたら、きっと空中で氷漬けだ。

上空は地上よりも寒い。

マイナス何度まであるのかは知らないけど、マイナスなのは確かだ。

そのまま凍りついたら、今度は多分白いベッドに雪と一緒に落ちるんだと思う。

きっと、北極にすむ生き物は、空からの大きな落とし物にビックリするはずだ。

好奇心旺盛な子は、氷漬けになったクラッシュたちをずっと見つめるのだろう。

「これ、なんだろう?」とか思いながら。

「――で、シロクマなんかが来て・・・」

「そしたら一巻の終わりだじょー。まあ、凍りついているから意識も飛んだまま・・・」

「うん・・・・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・プッ」

「・・・ハハッ」

「キシシシシシシッ・・・それって、おっかしい! じょー」

「うん、オイ・・・オイラも・・・アッハハハハ――」

まるで、何かのスイッチがはいったかのように、止めようのない笑いが込み上げてきた。

何がおかしかったのかは分からないけど、とにかく笑っていたかったのかもしれない。

しばらくの間、冷えきった空気の中で暖かい笑いが響き渡っていた。

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最終更新日(10.06.01)
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