Chapter6(3/6ページ目)
張込開始

ジャッキーからの電話がきてから間もなく、またあのマーチが鳴り出した。

「ああ、もう、今度は誰だ・・・ハッ――」

コルテックスは、液晶画面に表示された名前を見て、体を強ばらせた。

「エヌ・トロピー?なんだ、こんなときに」

コルテックスは通話ボタンを押した。

「もしもし、何か用か」

「そりゃオフコースですよ。用事が無いときにコンタクトなどしない」

「ああ、そうかい。お前が何かしでかしたのか?」

「いや、博士・・・別にミーのことではない。ドクター・エヌ・ジンのことでキャリングしているだけです」

「そ、そうか。アイツがどうかしたのか?」

「実は、彼がミーのラボにやって来たのでね・・・何かあったのですか?ベリーベリーアングリーな様子でしたが?」

この言葉はコルテックスの心に容赦なくグリグリと抉っているようだった。

「・・・お前のところに行っていたのか。アイツは、もうワシのとこには戻って来ないだろうな。手紙ぐらい残してくれれば・・・」

「ん?手紙?そういえば、彼が来たとき白衣の中を探していましたね・・・フム」

「その手紙のことはどうでもいい。早く用件を言ってくれ、こっちは忙しいんだ」

エヌ・トロピー相手だと、ピリピリとした声になってしまう。

緊迫したムードが広がって、どうも居心地が悪い。

「とにかくミーが言いたいこと・・・アー・・・反せ――」

「なんでワシが反省せねばらんのか!原因を作ったのはエヌ・ジンのほうだ!」

「おぅ〜・・・これはこれは。互いに責任をなすりあっている。ベリーベリーバッドね――ところでバイザウェイ・・・」

エヌ・トロピーの英語混じりの喋り方はたまに混乱させてしまう。

コルテックスはもう慣れていたが・・・

「――ミーも博士のミッションが成功するとは思えないですな」

あまりに率直すぎる意見に、そして新たな反逆者の登場に、コルテックスは怒りを通り越してショックを受けた。

「・・・それで、お前はパーティーに来なかったんだな」

「わざわざアテンドすることは無いと思いましてね。ミーは・・・いや、ミーも今忙しいので・・・」

「・・・『も』?」

「とにかく、おべっか使いのミスター・ジャッキーよりベターなパーソンがいるとだけ言っておこう」

「――そうか。ご忠告をどうも、だ。言っておくが、ワシからは謝らんからな。勝手に飛び出したのはアイツだ。じゃあな」

・・・。

コルテックスは、一人孤独になったような気がした。

(ワシはそれほどまでに万人の鼻つまみ者だったか?まあ、学生時代、少年時代から友達が少なかったのは事実だが・・・)

ブリオには裏切られ、エヌ・トロピーとは「そり」が会わず、ウカウカには敷いたげられ、レースクイーンには嫌がられ、クランチはクラッシュ側に付き、ビクターとモーリッツには遊ばれて・・・

「・・・そして、エヌ・ジン・・・惜しいことをしてしまったな」

タイニーやディンゴ、それにスウィーティーやジャッキーはどう思っているのか。

きっと、嫌なヤツと思っているに違い無い――コルテックスはそう思っていた。

「ワシはサイテーなヤツだったのかもしれん・・・はぁ、ニーナ、おじさんはもう疲れちゃったよ」

ニーナがその場にいないのに、コルテックスは独り言を呟いた。

心の助けはニーナの存在だった。

コルテックスは白衣から姪っ子の写真を取り出し、じっと眺めた。

「――よし・・・」

携帯電話を取り出し、ニーナの番号に電話をかけた。

少しの待ち時間が、とても長く感じた。

やがて受話器の向こうから、ニーナの声が聞こえてきた。

「もしもし、おじさん?」

「もしもし、元気か?」

「そりゃ勿論、元気に決まってるじゃない。おじさんは?」

「え?あ・・・いや、元気だが」

「全然元気そうじゃなさそうなんだけど――ハハーン、おじさん、何かあったわね」

「――ああ・・・」

「ねえ、あたいに話してみてよ」

「っえ?」

「話してみて。ねっ?」

「・・・・・・聞いてくれるのか?ありがとう・・・」

いつも以上に親身なニーナに、コルテックスは今の悩みを打ち明けた。

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最終更新日(10.02.07)
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