Chapter5(2/3ページ目)
喧嘩

潜水艦の中で、二人は暫くの間無言でいたが、エヌ・ジンが突然聞いてきた。

「ああ、そうだ――コルテックス殿・・・」

「ん?どうしたんだ?」

「実は、その・・・ジャッキー一人に任せても問題は無いのだろうか」

エヌ・ジンはジャッキーのことが信用出来ないのだろうか、ボソリと呟く。

「大丈夫だ、アイツは信用出来る。洗脳も十二分にやったし、裏切ることも無い・・・はずだと思う」

確かに、ジャッキーのコルテックス一味に対する忠誠心はとても高く、それは一、二を争うほどかもしれない。

コルテックスが信頼しているタイニーやディンゴに対しても恭しいから、コルテックスは印象の良いヤツだと思っていた。

なのでコルテックスは信用しているようだが、エヌ・ジンはそれでもまだ疑いの念を拭いきれない。

彼はすかさずに反論した。

「しかし、完全に信用は出来ませぬぞ。性格を見ると・・・」

いつもなら歯向かってこないエヌ・ジンがこんな態度になっものだから、コルテックスもついアツくなってしまう。

「いや、大丈夫だ!心配なら・・・心配なら、すぐに呼び寄せて帰ればいいだろう!」

急にコルテックスが切れた。

顔を烈火のごとく真っ赤にして、しかし怒っているというよりはイライラしているように見える。

「この計画を先に思いついたのはお前だぞ、エヌ・ジン!それを今になって――」

「されど、念には念を入れるべきだと思って申したまで――」

「もう決めたことだろう、あまりコロコロと計画を変えるのは科学者として如何なものだろうか、え?」

「・・・」

「・・・」

両者の間に緊張の走る無言の時間。

互いに目から火花を散らせ、バチバチとぶつかり合う。

それは均等の力で、決着が付くことはなかった。

そして・・・

「もういい!拙者は帰らせてもらう!後は自分でやってくだされ!!」

エヌ・ジンの堪忍袋も切れてしまった。

相当な険悪ムードが潜水艦の中に漂っていた。

エヌ・ジンは新型ミサイルの操作マニュアルをバシンと床に投げ捨て、外に出て行ってしまった。

そして間もなく、潜水艦のすぐ外でカンコンカンコンと何かを作るような音が聞こえてきて、それからすぐに外でロケットパックの噴射音が聞こえた。

コルテックスはそれから暫く待っていたが、もう戻ってくる気配は無かった。

「エヌ・ジン・・・フン、あんな奴なんか知るか!ジェットの燃料が海の上で切れて落ちてしまえばいいんだ・・・」

その時、また『コルテックスの世界征服マーチ』の着メロが無神経に鳴り出した。

コルテックスは少しの間躊躇していたが、決意を決めて通話ボタンを押した。

「もしもし、コルテックスだが!」

コルテックスはきつい言葉で言ってしまったが、思っていた相手とは違っていた。

「な・・・なんだじょ!急に」

コルテックスに電話をかけたのはジャッキーだった。

「どうしたんだじょ?そんなにプリプリして――」

「な・・・何でもないさ、気にするな」

とりあえずの、取って付けたような平静さを装った。

「それよりも、お前のほうはどうだ?うまく隠れているのか?」

「キシシシシ、そこは心配しなくても大丈夫だじょー」

「そうか、大丈夫か。良かった――では、次の報告を待っている。その時にな」

「あっ、ボクちん、エヌ・ジンさまに用があるじょー。出来れば代わってもら――」

コルテックスは、強制的に電話を切った。

「・・・」

さっきまで募りに募っていたイライラがまた点火してきた。

ここにきて水をさされるなんて、思ってもみなかった。

もうアイツのことは考えたくない、戻ってくることも無いかもしれない。

多分。

「・・・とりあえず、このマニュアルを読まんとな・・・」

コルテックスはトドメをさすためのミサイルを使いこなそうとマニュアルを手に取り、読み始めた。

しかし、その新型ミサイルのマニュアルは、エヌ・ジンのことを嫌でも思い出させていた。

マニュアルは、エヌ・ジンの喋り方そのままの言葉と、彼の筆跡だと分かる字で大半を占めていた。

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最終更新日(10.02.07)
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