Chapter3(2/3)
コルテックスとエヌ・ジン
しばらくして、コルテックスは思い出したように言った。
「そういえば・・・何をしにここに来たのだ?用があって来たんだろう」
エヌ・ジンもすっかり忘れていたようだった。
「ああ、すっかり忘れてました、失敬――あー、確か・・・そうだ、思い出した――ウカウカ殿が呼んでおります」
今でもひどい顔をしていたコルテックスが、もっと青い顔になった。
「ウカウカ様が?!ああ、どうしよう、こんなときに。今度はどんな言い訳を言えばいいのやら・・・冗談だと言ってくれ・・・」
コルテックスは、文字通りアセアセとした。
「はい、冗談でございます」
「ァヮァヮ――っえ?」
「ウカウカ殿が呼んでいるというのは冗談で、ちょっとからかってみただけでして・・・拙者の道化をお許し申す・・・」
「なんだ、そうか・・・いや、ワシは別にビビっていた訳じゃないぞ!フリだ、フリ!」
「はぁ・・・(見え見えではないか・・・)」
コルテックスは気を取り直してもう一度聞いた。
「それじゃ・・・本当の用件を言ってくれないか。何だか疲れてきた」
「はい、コルテックス殿、以前『エヴォルヴォレイ』と『コルテックス・ヴォルテックス』を使って新しく洗脳動物を作りましたよね、ほら、トロピー殿に張り合うために・・・」
「ああ、そういえばそんなこともあったな。うむ・・・」
コルテックスは、当時を懐かしむように言った。
「確かに使った。え〜っと――確かハリモグラとタスマニアン・デビルにやったな・・・うん。そういえば、最近は放っておいてそのままだったな」
「それを利用すればクラッシュ・バンディクーに勝てるかも知れませぬぞ」
エヌ・ジンは、「バンディクー討ち取ったり!」の格好をし、剣を鞘にしまうマネをした。
丁度外で稲光が光り、エヌ・ジンの後ろの窓から漏れる光が後光のように見える。
暫くして、重々しいゴロゴロという音が響いた。
次にコルテックスの口から出た言葉は、威圧感の無い重々しい苦難の声だった。
「あー、つまり、アイツらに攻撃をさせるというのか?それだったらタイニーやディンゴのほうが――」
「いや、違う、攻撃させるのではない!――っあ・・・すまない、つい熱が入って・・・」
「構わん。で、アイツらが攻撃しないのにやっつけるとはどういうことだ?良く分からんが」
「密偵、つまり、偵察をするのです・・・素行を調査し、油断しているところを我々がドカンと――そう、拙者の新型ミサイルを試すのにいい機会かと存じ上げるが・・・」
「油断しているところをドカンと、か」
「何か?」
「いや、何かしっくり来ない。もっと正々堂々いきたいものだが・・・」
「その結果がこれですぞ。な〜んにも成果無し。不景気の中、いや、どんな状態であろうと、奴等には正攻法では勝てまい。もう他に方法は無い」
コルテックスは、何故か反対意見を言いたそうな感じがした。
やりきれないような、やるせないような、不思議な表情を浮かべていた。
そして、今までより殊更深い溜め息をついてから重々しく言った。
「エヌ・ジン、お前には分からないだろう」
「――っへ?」
エヌ・ジンは困惑した。
何が、自分には分からないのだろう。
エヌ・ジンは、コルテックスの顔に懐古の表情が浮かぶのを見たような気がした。
「いいか、ワシと、あの裏切り者のブリオにしか分からんだろう。『今の』クラッシュの生みの親はワシらのようなもんだぞ。何たる『運命』よ――」
「つまり・・・うむ、武士道ですな・・・こっそり、卑怯は許せない、そういうことですな」
「そういうことだ。しかし――やはり他に方法は無いか・・・よし、じゃあ、こういうプランはどうだ――」
時間は丁度遊び盛りの時間。これからがお楽しみの時間だ。
クラッシュ達は、浜辺でのんびりと遊んでいる。
ダンスを踊ったり、お昼寝、サーフィン、ネットサーフィン・・・
そんな様子を、手下の一人がじっと見張っている。
クラッシュ達は見張られていることに気付いていない。
見張っている手下は、常に情報をコルテックスに無線で伝える。
今出かけた、今昼食の時間だ、今寝たところだ――
そして、『今、油断している』――
「――これを合図に、ワシ達がエヌ・ジンの新型ミサイルでドカンとやるんだな。ヤツら、どんだけ怯えることか!だが、飛行船じゃ目立つよな・・・そうだ、潜水艦!」
「えっ?潜水艦なんてありましたっけ」
「今から造るんだよ。『天才宇宙機械技師』の肩書きを持っているから、潜水艦なんてチョチョイのパーだよな、そうだろ、エヌ・ジン?」
声が猫なで声になっている。
「はあ・・・じゃあ今から造りますよ。完成したときにまた会おう・・・」
エヌ・ジンは、静かに部屋のドアに向かった。
その背中に、コルテックスの声が飛んで来た。
「あっ、どれだけ長く潜水艦に居座るか分からないからな。食料は沢山積めるようにしといてくれるか?それに、スウィートルームやシャワーも付けてくれるか?あと――」
「完成するのが遅くなりますよ」
それだけ言い残してエヌ・ジンはドアをピシャリと閉めた。
コルテックスの部屋には、本人がそのままの格好で固まっていた。
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最終更新日(09.08.27)
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