Chapter10
「ベン、いい加減に起きなさい、また狸寝入りなんかして・・・」
こんな声がふと聞こえてきた。
あれっ、このシチュエーション、前にもあったな。
今度は、殴られないぞ、もうあんな痛い目には遭いたくない。
ボクはまた頭を上げる。
「ん・・・よう、グウェン」
はあ、やっと元に戻れた。
嬉しいような、楽しみが一つ減ったような、そんな気分だった。
でも、本当はこれで良かったんだと思う。
これが、本来のボク、・・・だよね――そう、いくらエイリアン・ヒーローになれても、ボクはベン・テニスンだ。
「良かったよね、ベン、元に戻れて」
「ああ、『一応』感謝しとくよ」
「一応は無いでしょ・・・いくらなんでも・・・誰のお陰だと思ってるのよ」
「さ、帰ろ帰ろ」
今は、こういうことにかまいたくなかった。
だって、今は口喧嘩したくなかったから。
それに、ありがとうだなんて素直にパッと出てくるはずがないじゃないか!
ボクは、ガミガミ言っているグウェンを横目に、じいちゃんのところに戻った。
ボクとグウェンは一緒にキャンピングカーに入った。
じいちゃんは、運転席の修理だろうか、そんな感じのことをしていた。
ボク達が声をかけたら、すぐに振り向いた。
「!・・・ベン、戻れたのか・・・?!」
「ああ、どんなトラブルもこのベン・テニスンには敵わないさ」
「違うでしょ、私が元に戻したんじゃない」
ったく、グウェンったらまた余計なことを・・・
じいちゃんは勿論、グウェンの言ったことを信じた、チェッ、ボクはどうせあてにされていないんだ。
「そうか。しかし、どうやってベンを戻したんだ?さっきは『ベンを助けられるかも』としか言っていなかったぞ」
「うん、それはね――」
グウェンは、ボクを人間に戻すまでのいきさつを語り始めた。
何でも、思いついたのはこの前グウェンが一人で街に出かけたときらしい。
帰り道、グウェンは何故か惹かれるように電気屋さんのショーウインドーを見た。
そこに置いてあるテレビでは、ある番組が放送されていた。
人と人が正面からぶつかりあって、体が入れ替わってしまう話だ。
グウェンはしばらくこれをみていて気が付いた。
『もしかして、ベンもこれと同じ境遇にあるんじゃないかな』って。
それで、また大きなショックを与えればボクが元に戻るかもしれないと考えたみたい。
ボクは、こう話したグウェンのあとを引き継いだ。
「それで、その計画の結果がこれさ。グウェンの案の定、ボクは元通り」
「何だか皮肉った言い方じゃない、戻りたいんじゃなかったの?」
「それはどうだろうね、グウェン。今のボクとグレイマターのボクは違うんだぞ」
こうは言ったけど、ボクは本心ではグウェンに感謝していた。
さっきも言ったけど、素直にありがとうなんて、恥ずかしくて言えない。
まあ、この事件のきっかけはグウェンがボクを散歩に連れてきたことではあるけど・・・。
でも、ボクの為に色々考えてくれたんだよな。
「さあ、これでボクも本業復帰だ!」
ボクは、また自由に、好きなエイリアン・ヒーローになれる。
「おい、ちょっと待て、ベン」
じいちゃんにとめられてしまった。
何なの?
「何か、忘れて、いないか・・・?」
じいちゃんは、一句一句念を押すようにいった。
忘れ物・・・ボクが何か忘れたっけ?
「あー、ごめん、何のことだかいまいち良く分からないんだけど・・・」
「ふぅ、ベンときたら――」
何も、そういう言い方しなくても、と言いたかった。
でも、そういうことを言える空気じゃない。
「――あのな、グウェンはどうなるんだ?お前はグウェンに大きな借りが出来たんだろう・・・?」
ああー、また大きな借りか。
確か、異次元からボクを連れ戻してくれたときも、そういうことを言われた。
「また大きな借りかよ、それじゃあ、今度こそスティンクフライのネバネバで――」
「ちがーう!仕返しじゃなくて恩返しだ、ただありがとうと言えば済むじゃないか」
でも・・・それじゃ、今までお礼をためらってきたのはなんだったの、って話になっちゃう。
「分かった、いつかするよ、多分ね」
「もう、ベンったら恥ずかしがり屋なんだから、忘れるんじゃないよー」
ああ、忘れないだろうさ、とんでもない事件だったもの。
でも、何だか嬉しかった。
こんなボクでも――いつもヒーロー気分でゲームと漫画が好きなだけのボクでも――気にかけてくれる人がいたこと。
最初は敵だったアニモ博士の試作品626号。
もちろん、じいちゃんも。
そして、誰よりもいろいろ気を配ってくれたグウェンだ。
ボクは、グウェンわただのいとこだと思っていたけど、これがきっかけで価値観が変わった気がする。
これからも、頑張れる気がしてきた。
その気持ちを映すように、今日の天気は晴れ渡っている。