BEN 10 小さな問題 その2


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Chapter6

ボクは、いつもより早く起きてしまった。
何でだろう。
背中のオムニトリックスが寝るときに痛かったからか?
まだ、グウェンとじいちゃんは起きていない様だ。
とりあえず、目を覚ます為に顔を洗おう。
そうだ・・・ボクのコップを探さないと。
水を入れて、顔を突っ込むとかしないと洗えない。
・・・。

コップ・・・!
コップで思い出した!
ゆうべの日記だ、コップの横に置きっぱなし!
「どうしよう、もしグウェンが見ちゃったら・・・」
ボクは焦りながらも上まで登った。
そこには、コップとその他洗い物でごったがえしていた。
昨日の日記は・・・あれ・・・ない・・・?
「もしかして、読まれちゃったか・・・?」
いや、そんなはずはない。
思いたくないよ、恥ずかしすぎる。
ますます、謝りにくくなっちゃうな。
でも、その内に謝らないといけない。
何と言っても、ボクの為に頑張ってくれているんだもんな・・・。
なんかセンチメンタルな気分になっちゃったのは気のせいかな。
自分でも頑張らないと。
ボクは、気合い入れも兼ねて、顔を洗い流した。


でもグウェンは、やっぱりあの日記は読んでいないように見えた。
風邪をひいたせいもあるかもしれないけど、何も話したがらない感じだった。
朝ごはんのときも、同じだった。
もっとも、今日の朝ごはんはじいちゃんのお手製だったから、そのせいかも知れないけど。
どうやって糸口を見つければいいんだろう。
こんなに気まずい状態で夏休みを過ごすなんてやだよ・・・。

「ねえ、おじいちゃん、ちょっと散歩したいんだけどいいかな」
昼過ぎだ。
グウェンがじいちゃんにお出かけの許可をもらおうとしていた。
「そうだなあ・・・風邪がひどくなるかも知れないんだぞ、駄目とは言わないが、あまり無理はするんじゃないぞ」
グウェンはとても喜んだ様子で、あっという間に出かけていった。
XLR8かよ、と言いたい位だ、いつの間にかキャンピングカーから消えていたのだから。
ボクはふと、グウェン一人で大丈夫かな、と思った。
後からこっそりついていこうかな。
その為には、じいちゃんをうまく出し抜かないといけない。

じいちゃんは、運転席で何かブツブツと言いながら悩んでいた。
配管工のことで悩んでいたりして。
とにかく、今がチャンスだ。
ボクは、窓からこっそり抜け出し、真夏の日射しの中へ飛び込んだ。

さてと・・・。
外に出たけど、グウェンはどっちに行ったんだろう。
う〜ん、あまり遠くには行かないだろうな。
風邪をひいている。
街にも出ないだろう。
キャンプ場を歩くのは散歩とは言わないだろうし。
となると・・・。
「あの森の中へ入ったに違いないな」
きっと、グウェンは気分転換がしたかったんだ。
だったら、森の中にいると考えるのが妥当な意見だ。

「よしっ、進路は森の方角だ!」
ボクは急いでグウェンがいるかもしれない森に向かって走り出した。
急がないと、追いつけない!
やっぱり、こういう時は不便だよね、この体・・・。


5分位走ったかな。
森の奥のほうから、何か揉めているような物音がした。
誰の声かは分からないけど、こんなところに来ているのはボク達以外にはいないよね・・・多分。
もう少し近づいて見ると、声が聞こえてきた。
グウェンの声と、もう一人いるみたいだ。
やっぱり、森に来ていたんだ。
今日のボクって意外と勘が冴えてるぅ〜、なんてね。
でも、ちょっと気になることがある。
もう一人の声、聞いたようで聞いたことがない感じだ。
・・・。
・・・。
駄目だ、分からない。
無性に気になってきちゃった。
あそこに行ってみよう。

「嫌よ、離して!」
「駄目なんだな。お前は、俺とあそこに行くんだな」
もっと近づいた時、はっきりと声が聞こえてきた。
何かヤバい感じ・・・。
とにかく、グウェンを助けなくちゃ。
ボクはその場所まで、獲物を捕らえる瞬間の野生動物のようにしなやかなに、でも半分びくつきながら走った。


ボクは、グウェンを捕らえようとしているヤツに向かって叫んだ。
「おい、グウェンを離せ!さもないと――」
「――何だって言うんだ?」
あれ、あいつ、ボクと同じ服装・・・。
ていうか、まんまボクじゃん!
ヤツはゆっくりと振り向いた。
思った通りだ、人間のときのボクと瓜二つのヤツだ。
唯一違うのは、オムニトリックスを装着していないところだ。
それに、妙に無表情だ。

「ベン・・・来てくれたんだね・・・私・・・ごめん」
「今はそんなこと言っている場合じゃない!それよりお前は一体何者だ?」
ボクはヤツに聞いた。
「フフ・・・聞かれたら答えるのが礼儀なんだもんな、俺は・・・アニモ様の試作品626号だ」
試作品626号?
なんだそれ・・・。
「スティッチ・・・なはずないか」
グウェンが言った。
「何だよ、そのスティッチって」
「ごめん、何でもない」

まあいいや。
それより、コイツがアニモ博士の手下だって?
今こそ、フォーアームズか何かになってやっつけたいのに・・・。
最悪の状況だ。
力技は通用しない・・・!

「で、お前は俺をどうしたいのか?」
「やっつけるに決まってる!」
「グレイマターでか?笑わしてくれるんだな、ハハハ・・・」
ボクはこの隙にコイツの体に張り付いた。
そして、服の中を駆け巡る。
「お、おい・・・くすぐったいんだな・・・アッヒャッヒャヒャヒャ・・・」
よし、次は目を潰してやる!
ボクは顔を登り、ヤツの目を潰そうとしたけど・・・。

出来ない、何だかボク自身にやってる感じがする。
自分を痛めつけられない。
躊躇していたら、ヤツに摘ままれてしまった。
「グレイマターのお前に何が出来るんだ、え?何とか言ってみたらどうだ、なんだな」
「っく・・・」
絶体絶命、まさにオール・イズ・オーバーだ。
どうすればいいの?

その時、グウェンが言った。
「ベン、昨日のおじいちゃんの言葉を思い出して!」
えっ・・・昨日の言葉?
えっと、グレイマターは狭い所にも行ける・・・これは違う、こんな場面じゃ意味がないよね・・・。
・・・何だろう・・・。
ああ、駄目だ!
この間にもヤツは何を仕出かすか分からない。
くそ、考えろッ!

・・・。

・・・ん・・・考えろ・・・?!
・・・そうか、分かったぞ、頭を使うんだ。
でも、やっぱりどうすればいいのかいまいち良く分からない。
大体、自分で物事を考えただけでコイツが手を離してくれるハズがない。
ボクの馬鹿ぁ〜、何でアイデアが浮かばないんだ?


「さあ、お前もアニモ様のところに行くんだな・・・」
ボクは、未だに身動きが出来ないでいた。
「この地にお別れでも言うといいんだな・・・」
そんなこと、急に言われても困る。

と、その時、ボクの頭の中で、電球がパチッと付くように一つの案が出てきた。
そうだ、いい考えかもしれない。
うまくいきますように・・・
「ねえ、キミって何かに感謝したことってある?」
コイツの執念で歪んだ顔が、ピクリと動いたような気がした。
動揺しているのか?
だが、まだ感情が読めない、もっとアタックしたほうがいいかもしれない。

「ボクはね、そうだな・・・最近はオムニトリックスに感謝しているな。毎日が楽しくて仕方がないね」
「・・・」
「でも、もっと感謝しているのがある。ボクを産んでくれた両親だ、この世に生まれて、大変なことは一杯ある・・・
 だけど、充実した毎日を過ごしている。ボクは、そんな毎日をくれた両親に感謝している、キミはどうだ?」

ボクはヤツを見た。
何だか険しい顔をしている。
「俺は・・・俺は・・・うぅっ」
ボクはびっくりした。

試作品は急に座り込み、何だか孤独そうに見えた。
「ちょっと、大丈夫か?」
ボクは心配そうに言った。
実はこれが狙いだった。
人に作られた生物は、親がいない。
そのことで悩むことも多々あると聞いたことがある。
ボクは、そこを突いてみたんだ。
ボクが親に感謝しているかと言えば・・・まあ、多分感謝はしているかな。
今はオムニトリックスに夢中だけど。

とにかく、天涯孤独作戦は上手くいったみたい。
そしたらこの通りだけど、何だか可哀想になってきた。
やっぱり、一人で悩むのは辛いんだろうな・・・
ボクは、グウェンがいたから頑張れた。
グウェンがいなかったらボクもこうなっちゃうのかなぁ・・・。

「なあ、元気だせよ。これから楽しめばいいんだよ」
「これから・・・?そんなことは出来ないんだな、つくられた者の・・・いわば宿命なんだな」

・・・。

そうなのか・・・。
ボク達の周りに、居心地悪い静寂が広がった。