Chapter4
ふぅ。
やっとキャンプ場に戻れた・・・。
何だか寒気がする。
やっぱり風邪、ひいちゃったのかな、お風呂に入って、ゆっくり休まないと。
それより、問題はベンだ。
おじいちゃんに何て説明すれば良いんだろう。
ベンがグレイマターから戻れなくなった、って信じてもらえるかな・・・。
当の本人は、何を考えていたのか、元に戻ろうと躍起になっていた。
事の深刻さに気付いたんだと思う。
私も全快したら助けてあげないと。
キャンピングカーのところに向かうと、おじいちゃんが待っているのが見えた。
私はおじいちゃんの胸に向かって飛び込んだ。
「どうしたんだ、グウェン、いつものお前らしくないぞ」
「うん、それより――ゴホッ、ゴホッ・・・・・・」
「風邪をこじらせたのか?ゆっくり休まないとな――ベンはどうした?」
「そう、それが大変なことになったんだよ――」
「そうなんだ、じいちゃん、大変なんだ」
いきなりベンが私のポケットから飛び出して叫んだ。
「あれ、ベンじゃないか。何でグレイマターになっているんだ?というより、何で、そんなところにいるんだ?」
もう、いきなり飛び出すんだから・・・おじいちゃんがびっくりしているじゃない。
この後でこっそり言ってあげたんだけど、そしたら、
「だって――どう考えたって緊急のことでしょ」
だって。
さっきの――変身する前のあの態度はどこにいったの?
私は混乱していた。
ベンが変身すると、やっぱり微妙に性格が変わってる。
今もそうだ。
これだから、私は疲れるのかな・・・。
別に、ベンに――悪気が有るわけじゃないんだけど、きっとこれって運命の悪戯なんだろうな・・・。
「ベン、グウェン、質問に答えなさい。一体、何があったんだ?」
おっと、すっかりおじいちゃんのことを忘れていた。
私って今日は何だか一人で考え事をすることが多い気がする。
「あのね―」「それが―」
「・・・。どっちかが話しなさい。何が何だか分からないぞ」
ここは、私が言っちゃおう。
ベンにはちょっと任せられない・・・。悪いけど。
「ベン、私が言うよ」
「ふーん。じゃあよろしく」
ベンの楽天的性格はこういう時は気が楽になる。
「さあ、まずは中に入ろう・・・」
おじいちゃんに促され、私とベンはキャンピングカーの中に入った。
後からおじいちゃんも来て、三人でボックス席に落ち着いた。
そして、私は今までのかくかくしかじかを話した。
外のお天気は、私が話している間に着実に良くなってきていた。
話しているときに、一息つきたくなって、ふと空を見ているときがあったけど、
今までは、まるで私達の行動を見ていたかのように――つまり、私達が運悪くなるように――雨が降っていた気がする。
お天気はよく主人公達のこれからの雲行きを象徴することがあるけど、もしそうなら、ベンのこれからはそれほど悪くはないということかな・・・。
そう考えていたら、何か希望が出てきた気がした。
そりゃ、すぐに状況が良くなるとは思ってはいない。
でも、きっと何かしらできるはずだ。
私が何とかしなくちゃ・・・。
私が話し終えた後、おじいちゃんが、最後に事をまとめてくれた。
「じゃあ、オムニトリックスがショックで不具合を起こし、ベンがグレイマターから戻れなくなった、こういうことだな」
「うん、そうだね・・・」
うまくまとまっている。
私でもそんなにうまくはまとめられない。
「じいちゃん、この体、どうしたらいいんだ?これじゃ、戦えないよ。もし・・・もし、ビル――」
「今はあいつのことは考えるんじゃない。自分のことを考えろ」
「でも、もし・・・」
「そんなに『もし』なんて使うもんじゃないぞ」
私達の間に沈黙が走る。
「そうだ、ちょっと待っていてくれ――」
ベンとおじいちゃんがやりとりしている間、私はベンが考えていた『もし』について考えていた。
もし、今地球にヴィルガクスがやって来たら。
あいつは、ベンが――正確に言うならば、オムニトリックスが――目当てなんだ。
そんなやつが、グレイマターのままでいるベンを見たら・・・
捕まえられて、連れて行かれて、しまいには・・・。
やっぱり考えるんじゃなかった。
考えていたら、今度は雨じゃなくて槍でも降ってきそうな感じだ。
そんな事を考えているうちに、おじいちゃんは何が準備を終えたみたい。
「やあ、ベン、グウェン、お待たせ、ちょっと表で大切な話があるんだ。来てくれるか」
外は、あの雨上がりのときの独特のにおいでいっぱいだった。
私達は、とある岩に腰かけた。
「さて、ベン。今、どんな気持ちなんだ、思いっきりぶちまけるんだ」
あらら・・・。
おじいちゃんって結構大胆なことを言うのね。
私には、『私に不満をぶつけろ』という風にしか聞こえない。
ところが、ベンはそんなことは露知らず、って感じでおじいちゃんに色々喋る。
私は別に聞かなくても分かる。
戦えないとか、戻りたいとか、どうしようとか・・・。
おじいちゃんもよくずっと聞いていられるよね。
しばらくして、ベンは語り終えたようだった。
「そうか。グレイマターの小さい体のままだったら何もできない、そう言いたいんだな」
ベンは、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、良く聞くんだ。まずは、これを見てくれ」
何だろう。
私も気になって、おじいちゃんの手に乗っかっているものを見た。
「・・・・・・石と砂利、砂?」
何でそんなものを?
これから何が始まるんだろう。
「ベン、人間がこの石だとしよう。ヤツや、お前が変身出来るエイリアン達が、私達が座っている岩だ」
「今のボクは砂?」
「砂利じゃないの?砂ほど小さくはないよ」
「ウン、グウェンの言う通りだ。これらの大きさは、パワーとか、体の大きさを表しているんだ、ここまではいいか?」
私とベンは、同時にうんと言った。
これって比較の話なの?
「ヤツには、私達人間やグレイマターは足元にも及ばないだろう。他のエイリアンに変身しないと勝てない・・・」
「それは前から分かっているさ・・・」
って、そんなこと言っちゃいけないと思うんだけど。
でも、おじいちゃんはそのまま話を続けてくれた。
「何でこんな話を聞かせるのか、それは、これを言いたいからだ。みんなそれぞれ、いいところがあるんだ。
日本の人で、『みんなちがって、みんないい。』という詩を作った人がいるんだ」
私は、おじいちゃんに質問をぶつけてみた。
「それとこれと、どういう関係があるの?」
「まさにこの詞が、それぞれ長所があるんだ、と示しているんだ。ここにビンがあるんだが、この中に岩は入らないだろう。石はギリギリ入るな?」
「うん・・・そして砂利は・・・」
「もっと容易く入る。細かい所までな。これ以上は言わなくても分かるな」
私は、自分の長所をうまく活かせ、と解釈した。
「じゃあ、ちょっと街まで行ってくる。グウェンの風邪薬を買ってこないとな。
二人とも、今日はキャンピングカーの中で過ごすんだ、いいか?」
答える前に、おじいちゃんはさっさと行ってしまった。
「ねえ、今日のおじいちゃんって何だかそっけなくないかな・・・」
「言えてる。まあ、ボクには関係ないけど〜」
「ベン、あんた、おじいちゃんの言いたいこと分かったの?」
「グレイマターは狭い所にも行けるってこと?あと忍び込めるし・・・」
・・・。
間違ってはいないけど・・・
根本的に言いたいのはそれじゃない気がするな。
とにかく、何だか疲れちゃった。
私は、ベンを連れてキャンピングカーに戻った。