BEN 10 小さな問題 その2


-サイトマップ -戻る
Chapter3

ボクは、あの後気を失ったらしい。
何だか、あれから大して時間が過ぎていない気がするし、何時間、いや、何日も過ぎた気がした。
このかったるい気分、何なんだろう。

「・・・ン・・・!・・・ベ・・・ン!」

ん・・・何だろう。
「・・・ベン!ベンッ!起きて!」
ああ、グウェンがボクを呼んでいたんだ。
でも、まだ起きるもんか。
ボクは、まだ寝ていたかった。
そして、さっき見た夢――空飛ぶボードで気持ち良く飛ぶ夢だった――をもう一度見たい。
ボクはそう思っていたんだけど。

「ペシッ」っていう音がして、同時に体全体に痛みが走った。
気絶しているフリなんてもうやっていられなかった。
「痛っ!・・・もう――何するんだよ、やめてくれ・・・」
今、頭が重いんだ、起きたくない・・・
「お願い、起きて!あんた、自分がどうなったか分からないの?」
えっ?それってどういうこと?
びっくりしたボクは、目を開け、重い頭をあげた。

・・・あれ・・・・・・?!
周りのものがみんな、大きく見えて、グウェンが、上からボクの顔を心配そうに覗き込んでいて・・・
そんな状況から、ボクはもしやと思った。

自分の体を見た。
手を、足を見た。
手で自分の頭をなぞってみた。
「何やってるの?」
ボクはグウェンの質問を無視した。
やっぱりだ。
ボクはグレイマターに変身していた。
あまりにも唐突な事実だった。
かったるい気分や、頭の重たいのが一気に吹っ飛んだ。


「ねえ、いつからこの状態だったの?」
「えっ?えっと、30分位前から・・・」
なんだって、そんなに前から?
「べン・・・あの・・・」
グウェンが何か言おうとしていたけど、ボクにはどうでも良かった。
不思議と声にならない声が込み上がってくる。
「・・・・・・・・・」
「辛いのは分かるわよ、だって――」
「ぃやったあぃ!」
「へ?」
グウェンは何を誤解してるんだ。

説明してやんないと。
「『へ?』だって、ハハハ・・・だって、ずっと変身したままでいられるんだ、嬉しくないはずないじゃないか」
こんなチャンス、めったにないだろう。
今、ボクは水を得た魚、いや、水を得たリップジョーズかな。
例えるならそののように気分がいい。
しかし、いつになく気分がいいのは何でだろう・・・
違和感を感じると言うよりは、何か嬉しいのだ。

まあいいか。
その時、グウェンはまた平手打ちをした。
「ベ、ベンのバカッ!・・・あっ・・・」 「痛ったぁ・・・何するんだよ、グ・・・ン?」
ボクはまた打たれたのだ。
黙ったままでいるはずはない。
でも、グウェンを見て、その暴れたい気持ちは何処かに吹っ飛んじゃったみたい。
グウェンは、目に涙を溢れんばかりに溜め、今にも大泣きしそうだった(別に、普段のグウェンが泣き虫だという訳ではない)。
しかも、今気付いた。
さっきから雲行きが怪しかったが、既に雨は降りだしていたのだ。
グウェンをもう一度見ると、体がびっしょりに濡れていた。
自慢の前髪も顔にべったりと張り付いている。
グウェンがボクの上に被さって、雨を防いでくれたの?
「グウェン、わざわざそんなことしなくても、そこの木の下とかに・・・」
「だって、体が汚れちゃうでしょ・・・クシュンッ」

何だか、申し訳が立たなかった。
もしかして、グウェンは風邪をひいてしまったの?
しかもボクが雨で濡れて風邪をひかないようにしたせいで・・・
ボクが風邪をひけば良かったんだ・・・
「さ、戻ろう」
グウェンが優しく、というより弱々しく言った。
「うん、戻ろう」

ボクとグウェンはキャンプ場へと一緒に向かおうとしたんだけど、なんせ人間とグレイマターだ。
歩幅が違いすぎる。
「グウェン、ちょっと待って、早すぎるよ――」
「あ、ごめん。今グレイマターになっているの、すっかり忘れてた・・・ゴホッゴホッ・・・・・・」
何だかさっきより具合が悪く見える。
「よしっ、じゃあ、私の肩に・・・いや、ズボンのポケットに入って」
ポケットに?いつもは肩に・・・。
「だって、今肩に乗せたら、あんたの姿をいろんな人に見られちゃうでしょ。
 そしたらきっと大変なことになると思う。新種の生物だと騒がれて、解剖されちゃうかもよ。
 そんなことになったらイヤでしょ」
確かにそうだけど・・・
他に方法はない。
手の中に隠れるのも難しいかもしれない。
いつかだって、グレイマターになっているときに、エイリアンマニアの男にさらわれた。
そして、仮面の奴らのところに連れて行かれて・・・
もう、あの二の舞はコリゴリだ。

ボクは、グウェンのポケットに潜り込んだ。
「じゃ、よろしく頼むよ・・・」
「もちろん、まかせてよ。でも、モゾモゾ動くんじゃないよ、そしたら気持ち悪いから」
雨がふり続く中、グウェンは凍えながら歩き出した。