一度は誰もが聞いたことがあるかもしれません。
不幸は、始めは小雨のように少しずつ始まる。
それが、ある時に突然、あたかも蛇口を捻ったときのように――大雨が降り始める。
勿論、いつも、誰もがそうだとは限りませんけどね。
Chapter0
「ああ、ヒマ、ヒマ、ヒマだ!!」
グレイマターが叫んだ。
その小さくも耳障りな声は、辺りに響き渡る。
「ヒマ、ヒマだ、ヒマ・・・」そしてエコーになって声が返ってくる。
周りにいた他のエイリアン・ヒーロー達がグレイマターの方を見た。
「あっ・・・・・・あの・・・ごめん――」
グレイマターは大分落ち込んでいるようだ。
ここはオムニトリックスの中。
数々のエイリアン・ヒーロー達が、持ち主の為に「待機」している。
さて、グレイマターのところに一体のエイリアン・ヒーローが近づいてきた。
リップジョーズだ。
彼は、グレイマターにそっと話しかけた。
「おい、何を落ち込んでいるんだよ。話してみろよ・・・」
グレイマターは、ちらっと彼を見てから話し出した。
―――。
「――という訳なんだ」
「ふーん、お前、そんなことをいつも考えていたのか?」
そっけ無く言い返されてしまった。
「・・・というか、一応聞くけどさ、お前はグレイマターなんだよな?」
「見れば分かるだろう、何でわざわざそんなことを聞くのさ」
「いや、ちょっとね――。で、お前が言っていたことだけど、それは仕方がないことじゃないのか」
「なんか、悔しいというか、不完全燃焼というか――そうだ。羨ましいんだ」
「グレイマター、よく考えてみろ」
「えっ」
グレイマターはキョトンとした。
逆に言い返されてしまったからだ。
「お前のでっかち頭で考えてみろ、お前とあいつらと、どっちがとどめを刺せる?」
「そりゃあいつらだと思う、それは分かっているさ――」
グレイマターはうつむいてしまった。
微妙に嫌な時間が流れる。
「で・・・でもな、ボクだってたまにはガツンと相手を圧倒させたい。というか、ずっとここに居て待っている事が嫌なんだ」
グレイマターが、今度は怒ったようにフォーアームズを見、キャノンボルトを見、そして改めてリップジョーズを見る。
「はぁ――あのな、、、何ていうか、、、仕方ないことじゃないのか?諦めろよ」
「っ――そんなことが出来れば気も楽になるさ・・・」
悲しそうに言った。
「本当のとこ言うと、オレもそんな気分なんだぞ」
グレイマターにとって、このリップジョーズが言った言葉は衝撃的だったようだ。
「だったら、何で・・・?」
「お前が一番良く分かっていると思ったけどな。それぞれ特性ってやつがあんだろーが・・・
敵にとどめを刺すには、お前みたいな非力のエイリアン・ヒーローより、パワーのフォーアームズのほうが良いに決まっているさ・・・
オレが地上でまともに活動出来ないのと同じだよ」
「・・・・・・・・・」
「だからな、そんな無駄な望―――」
「うっ・・・うるさいッ!」
どうやら、グレイマターを怒らせてしまったようだ。
「・・・何をそんな・・・逆上すんだよ(グレイマターって怒らせると怖いな・・・)」
「もういいよ!リップジョーズなんかにボクの気持ちが分かるか・・・・・・っく・・・」
グレイマターは、リップジョーズに背を向けて走り出そうとした。
「ちょっと待て!お前は間違っている・・・!」
しかし、グレイマターはその言葉を聞かず(もっとも、聞こうとも思わないだろうが)、緑色の光で溢れている空間に向かって走り出した。
リップジョーズには、その走る姿が、少し悲しそうに、泣きそうに、そして悔しそうに見えた。
(もしかしたら、オレが間違っていたのかも・・・オレが挑発のような感じで言っちゃったから、グレイマターを怒らせてしまったんだ・・・どうしよう――)