Chapter12(1/2ページ目)
疑いの念

僕は兄さんの言葉に驚いた。

僕が、何かやったのかって?

誘拐をしたのかって?

まさか、疑っているの?

「ねえ、何を言っているのか良く分からないんだけど・・・」

「よし、じゃあ言ってやろう。お前は1ヶ月ぐらい前にスポーツランドに行ったろ? ロングサーキットに出るためにさ」

「うん、行った行った。それで?」

「その日、ゼンマイスポーツランドで事件があったのを知っているか?」

「え? 何のこと?」

「お前はレース以外にあまり興味を持たないからな。仕方ないか・・・あの日、スポーツランドで誘拐事件が起きたんだ。誘拐されたのはブルードルフィンってヤツだ。お前、知っているか?」

ブルードルフィン・・・思い出した!

春の山で一緒に走っていたあのチョロQだ!

僕がポイントを貸して、そして彼からオールラウンド+4を貰ったんだ。

「知ってるよ。僕、直接話したし、レースもした」

「そうか。彼は大陸ダートラリーで優勝したんだ。あの日、彼はスポーツランドでブラック・マリアに表彰されて、その後・・・姿を消した。まるで幻影のようにな」

「そんな・・・まさか・・・信じられないよ」

「でも、本当に起きてしまったことなんだ。そして、まだある。次は、マウンテン・マウンテンだ・・・」

なんで、僕が行く先々でそんな変なことが?

「ついこの前、そうだ、えっと・・・一昨日だ。8日」

「僕が下山した日だね」

「今度は、アーパスというやつが誘拐された」

「えっ、ウソでしょ?」

「いや、本当だ。こちらも跡形なく消えてしまった」

僕と対面して、話して、親しくなったチョロQばかりが狙われていく・・・

僕はちょっとした恐怖感を覚えた。

「そして、ここの店主も誘拐されて、たった今違うニュースが入ってきたんだ。またこの街で誘拐事件だ。今度は、ドラッグレースの店主が狙われた」

「えっ。僕、会った会ったばかりなのに・・・」

「いいか。お前と接点のあるやつらばかり狙われている。俺は不安になったんだよ。お前のことが。もしかしたら・・・ってな。本当に、何も知らないんだな」

「知らないよ! 僕はそんなこと・・・そんなこと・・・」

僕は言葉を詰まらせた。

「――しない」

兄さんが言葉を引き取った。

僕は、静かに頷いた。

「そうか。――実は、この誘拐事件、被害者にはある特徴があるんだが、分かるか?」

僕は考えた。

ダートラリーで優勝したブルードルフィン。

過去の実績があるアーパスさん。

スピード狂ながらも優勝カップを持つドラッグレースのジョニー。

それにこのエスカルゴカフェの前の店主。

考えた末、ある一つの結論に辿り着いた。

「みんなレースで優勝している。ここの店主のことは良く分からないけど」

「当たりだ。前の店主は、ワールドグランプリで優勝したことがあるんだ。犯人は、そういう強いやつらを集めているんじゃないかと思う」

「強いやつ・・・」

「お前がこれから強くなっていけば、今度はお前も狙われるかもしれない。若いし、隠れた才能がある。それを犯人に嗅ぎ付けられたら・・・」

兄さんの言葉の続きは聞かなくても分かった。

・・・今度は、僕が狙われるかもしれない。

「分かったな。絶対に無茶はするんじゃない。何かあったら、こう言うんだ。『僕はエスカルゴカフェの新しい店主と深い付き合いなんだ』ってな。そうすりゃ、大概のやつは恐ろしさのあまり誘拐をする勇気を失くすだろう。未だにこのカフェは危ないというイメージがあるからな。先入観を逆に利用してやれ。健闘を祈っている」

「うん、ありがとう・・・」

僕は兄さんにお礼を言った。

「じゃあ、俺が駅まで送ってやる。また早いんだろう。もうすぐレースもあることだし」

「OK。本当言うと、とっても助かるよ。また迷子になっちゃう」

「さあ、付いて来い。近道すればあっという間だぜ」

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最終更新日(11.04.21)
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