Chapter9(1/3ページ目)
準備

「いや〜、ようやく着いた。疲れたなー」

アグネスはマウンテン・マウンテンの9合目にいた。

ちなみに、その先、つまり頂上へ行く道はまだ雪が残っていて危険なので入ってはいけないことになっている。

「わぁ、いい景色だなあ――と言いたかったけど、雲ばかり・・・でも旧バトルタワーのてっぺんなら見える」

さすがに9合目まで来ると雲の中に入ってしまうようだ。

「えっと、9合目の集落がある場所は・・・向こうか」

少しその方向に行くと、確かに集落があった。

ここはマウンテン・マウンテンに住むチョロQ達の中心街だ。

こんな高地で暮らすチョロQもいるのだ。

みんな図太いエンジン音を出し、元気に走り回っている。



『ピンポンパンポーン』

おっ、いつものアナウンスだ。

『レーサー様のお呼び出しを申し上げます。バラート様、アグネス様、ハセガワ3131様、ブラウンドッグ様、本部までお越しください』

それはロングサーキットのレースが終わった25分後のことだった。

「何かやっちゃったのかな、バラート・・・」

「まさか俺達、・・・いや、違うよな」

「――あの、二人とも・・・」

「何、ハセガワ3131」

「さっきのレースの上位4台が呼ばれただけだよ。ほら、レースが始まる前、言っていたよ、〈上位4台がレベル2の下位4台に挑戦し――〉って。多分、その説明を受けるんじゃないのかな」

「良く覚えてるな・・・」

「じゃ、早く行っちゃおうよ」

「ところで、ブラウンドッグはどうする?」

ブラウンドッグはラストで猛スピードを出したせいか、疲労困憊して、その場でぐったりしていた。

自力では走っていけなさそうだ。

「こういう時は、えっと・・・あった!レッカー呼び出しボタン」

壁についていたボタンを押した。

2分ほどでレッカーが到着。

「よっ。呼んだのは君達かな?」

「はい」

アグネスが応答する。

「おっ。アグネス君じゃないか。さっきのアドバイスは役に立ったようだね。中継で見ていたのさ」

「うわぁ、ありがとうございます」

「で、用件は・・・このビートルを何処かに運ぶとか?」

「はい、ドンピシャです」

「で、どこに運ぶんだ?」

「ゼンマイスポーツランド本部。僕等もこれからそこに行くんです」

「そういえば君達はさっきアナウンスで呼ばれてたな・・・よし、分かった。君達は先に行ったほうがいい。この子は後からすぐに運ぶから」

この子とはブラウンドッグのことだ。

レッカー車から見れば、僕たちはまだ子ども扱いされているようだ。

「さ、早く本部に行かないとうるさいから・・・行こう」




「やあやあ、まずは、おめでとう!4台のレーサーさん。うまく行けば、レベル2に上がれるわけだ、云々、云々――」

前にいるのはなんとブラック・マリア。

トップクラスのレーサーであり、中央チョロQワールドのレースの理事長まで勤めていたりする。

「――いやあ、3台が新人さんとはねぇ。私でも信じられない。現に私も新人の頃は全く勝てなかったものだ。バキュームカーと9位を争うような腕で、ボディもこんな高級品ではなかった」

(なんか自分の話題にはいったよ、バラート)

(ウン。あと1時間は続きそうな勢いだな)

「そう、やはり上のレベルを目指すならそれはもう努力するしかない。その時こそ真のレーサーとして認められるんでぃ!」

(なんだよ、最後の『でぃ!』って・・・)

「あの・・・そろそろ本題に入りましょう。この後もスケジュールは詰まっているのですよ」

秘書らしきチョロQがブラック・マリアに言う。

それにしても秘書を雇っているとはなんて金持ちなのだろう。

ボディはベ○ツだし、噂では城に住んでいるという。

きっと家には執事とかもいて、外を出回るときはSPとかも付いて廻るのだろう。

これを羨ましいと言うべきか、うっとうしそうだと言うべきか・・・

「分かった、分かった。本題に入ろう。――ん、大丈夫だ、エスペル。無駄話はしないように気をつけるから」

秘書の名前はエスペルらしい。

「ではこれからはまじめな話だ。君達は、レベル2の下位4台とレースをして、4位以内ならレベル1へと駒を進められる。5位以下ならレベル1に残留だ。いいか、レベル2からはポイント制のレースなんだ」

ポイント制なら聞いたことがあるし、分かっているつもりだ。

順位別にポイントが与えられ、最終的な総合のポイントの持ち数で結果が決まる。

苦手なコースがあっても得意なコースで巻き返せばいい。

自分でコースを選べないのは少し残念な気がする。

「レベル2では4種類のカップがある。とにかくサーキット中心のカップ、悪路攻め、ハチャメチャなカップ、そして総合的なカップ。レベル2の全てのカップは全5戦で構成されていて、最終戦は全て同じコースだ。ここまでは理解できているかな?――ウン、大丈夫そうだな。レベル2の下位4台を決めるレースは来週、チョロQキャッスル(Q3)で行われる予定だ。そしてこのレースで決められた4台のチョロQとレースをするのは1ヶ月後、夜の海(Q2)でやることにする。但し、時間は15時から。さすがにまだ夜にレースをするほどのレベルには程遠いだろうからな。とりあえず、海のショートコースと題してやることにする。そう、本来なら橋を通るルートを使うんだが、先日事故があってね。とにかく、そっちが使えないんだ。だからショートコースを使うんだ。それまで君達は自由に作戦を練るといい。アルバイトで金を貯める。体を鍛える。来週のレースを見てこれから戦うライバルをみてくるのもいいだろう。まあ、これで全てだ」

一ヵ月後か。大分先だ。

腕も鈍ったりして。

「重要なことだけもう一度言っておく。来週のレベル2のレースで選ばれた選手達と、1ヶ月後に海のショートコースで15時から試合だ。では私はスケジュールが詰まっているのでこれで失礼させてもらうよ・・・」


「なあ、何だかブラック・マリアって変に急いでいなかったか?」

話が終わった後、バラートが素朴な疑問をぶつけた。

「そうかな?お偉いさんだから、本当に忙しいんじゃないのかな」

ハセガワ3131は冷静に答える。

「俺は・・・分からない・・・へんなことをするのはチャーランキぐらいだろ――」

ブラウンドッグはどっちつかずのようだ。

アグネスはそんなことを気にしていられなかった。

何で他のチョロQのことを心配しなくてはいけないの、といった調子だ。

(一ヵ月後とはね・・・大分先じゃないか。これからどうしよう・・・)

この後、ブラック・マリアの話題が飛び出すことは無かった。

4台でチョロQタウンまで戻り、それぞれ家路に着いた。

そういえば、まだバラートの家とか見てみたことがない。

そのうちに連れて行ってもらおうかな・・・



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最終更新日(09.07.20)
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