Chapter16(5/5ページ目)
ブリオの化学研究

「・・・そういえば――」

ニーナは辺りをキョロキョロと見て、何かを探している。

「どうかしましたか?」

「なんか静かだと思ったら、あのゴリラみたいなカンガルーがいないわね」

「えっ――あっ、そうかもしれませんね、えぇ」

「まあ、あたいには関係ないからいいんだけど。もう、これで完成?」

「粗粗完成ですね」

ブリオは、薬品の入ったフラスコを氷水で冷やした。

その途端に、ゴボゴボいっていたのが止まり、薬品は静を成した。

「化学を為す為にはですね――」

「え? もう一回言って」

ニーナは聞き返した。

「化学を な す た め には――冷静さが大切なのですよ」

ブリオは語る。

「だから、今までは失敗続きだったんですよ、えぇ、そうです」

「ワタクシがあなたのおじさんの宇宙船を撃ち落としたとき、ワタクシは至って冷静でした、、、」

「でも、あの薬――亜種が幾つかありますが――を使ったときは見事にしてやられたのです」

ニーナはこれに対して、

「緑色の怪人になったり、カエルみたいになる変な薬?」

と聞いた。

「えぇ、アレを使うと人間的な考えが吹っ飛んで――それも快感なんですけどね。ヒッヒッヒッ」

「・・・って言うか、普段のあんたも人間としてどうかと思うけど」

ニーナの言葉はナイフのようにグサッと突き刺さった。

ブリオは聞こえなかったふりをした。

「ま・・・まぁ、とにかくです――冷静さを失ったところで、得るものは殆どありませんでした」

そして、冷やしているフラスコの様子を観察し始めた。

温度を測定した。

次にニオイを確かめる。

若干顔をしかめたが、満足そうな笑みも混ざった不思議な表情だ。

上手く調合が進んだらしい。

「さあ、完成ですよ」

ブリオは冷水からフラスコを取り出し、掲げた。

光が反射して、ギラリと黒く輝いた。

「この『黒い太陽』をあのムキムキに与えましょう・・・」

「『黒い太陽』?」

「だって、そう呼ぶほうが不気味に感じるでしょう、違いますか?」

「ん・・・まあ、不気味かどうかはどうでもいいんだけど」

「ともかく、これを与えるんです」

「飲ませるの?」

「いえ、今回は注射ですよ」

二人は気を失っているクランチのところへと向かう。

クランチは四肢をガッチリと押さえつけられていて、抵抗しようにも出来なかったのだ。

そして、反抗する間も無く強い睡眠薬を投与され、そのまま意識を奪われてしまっていた。

ブリオの計算でいけば、もう少しすると薬の効き目が切れる。

そして今――

「さあ、お目覚めの時間ですよ、怒れる怪物さん・・・ヒェッヒェッヒェッ」

「・・・」

ニーナは息を呑んだ。

「これってさ、どうなんのかな」

「記憶の中の怒りの感情を増幅させるんです、怒りは生物の攻撃的本能を呼び覚ましますからね。いわゆる『好戦的性格』になりますよ」

「サバイバーね」

「ええ・・・って、スタンドじゃ無いですから」

「スタンドの名前を言ったつもりじゃ無いんだけど。普通にサバイバーだって――」

「ワタクシはあんな非科学的なものは信じませんから」

「はい?」

「時を止めるだとか、護身的パワーの型だとか、云々、云々・・・」

「別に聞きたくないんだけど」

「あっ・・・そうですか。なんだか、今日のワタクシは話が脱線しがちになりますねぇ」

「あんたが勝手に脱線しちゃってんでしょ」

「まあ、そうですね」

「さあ、早くやっちゃってよ、薬・・・」

ニーナはブリオを急かす。

ブリオはフラスコの中身を慎重に注射器に注入する。

黒い液体で満たされていった。

フラスコの最後の一滴までしっかり入れた。

(注射器はかなり大きなものだった)

「これ、刺したら起きちゃったりしないの?」

「大丈夫ですよ、ワタクシの睡眠薬は最後まで強力ですから」

ブリオはちょっぴり自信ありげに話した。

「でもさぁ・・・」

ニーナが口を挟んだ。

「はい?」

「薬の効果ってもう切れてない? ほら、見て――」

二人がクランチを見ると、確かに殆ど効果が消えているようだった。

気分悪そうに頭を振って、目を擦ろうとした。

そして、四肢が縛られていることに気付き・・・

「・・・?」

バシッ・・・!!

ニーナの鋼鉄パンチが飛んだ。

(ネオおじさんに身体を改造されていたから、本当に文字通り「鋼鉄」のパンチが「飛んだ」)

クランチは、今度は気絶してしまった。

ニーナのパンチが効いてしまったらしい。

まさに散々だ、、、

「こりゃ派手にやってくれましたね」

「こうするしか無かったでしょ」

「うーん、しかしですね――」

・・・。

「――こうなると、次に起きるとき、彼がどうなるかは分かりません・・・」

「え、なんで?」

ニーナは『お前が滅茶苦茶にした』と言われているようで嫌でたまらなかった。

「なんでって、そりゃ勿論、計算に入っていないことが起きたからですよ」

「あたいのパンチが?」

「あと、彼が起きてしまったこともです」

「じゃあさ・・・基本的にブリオのせいだよね?」

「まぁ、まぁ・・・アー・・・そうですね」

「実験中の話の脱線が大きすぎたんだよ」

「むしろ、この小娘の急かしが原因ですって」

ブリオはニーナに聞こえないくらいボソッとこぼした。

ニーナには多分聞こえていなかった。

とりあえず二人は落ち着いて、ニーナはもう一度聞いた。

「とにかく、あのバンディクーはどうなっちゃうの?」

「多分、予想以上に暴走するか、全く効果が現れないか、どちらか・・・」

なんでも、使った薬はそのときの感情とか、体の状態とか、そういったもので効果が変わってくるというのだ。

投与される側、そして薬自身もデリケート、ということだ。

ところが、ブリオは自分で想定外なことを引き起こしてくれたものだから、この先どのように薬が効いてくるのか分からない。

ブリオは恐々した様子でクランチを観察している。

ニーナは逆にウキウキしながら待つ。

「なんでそんなに楽観視出来るのですか、危ないかもしれないのに」

ブリオはニーナに聞いた。

「だって、先が分からない方が面白いしっ」

「う〜ん、そういうものなんですかねぇ・・・」

「そういうもんよ、スリルが無くっちゃつまんないでしょ」

「ワタクシはむしろ静かな生活を過ごしたいものですが・・・」

「ふーん」

・・・。

・・・。

実験室の空調の音のみが辺りに響いて、二人はただ見守っていた。

ブリオはなるべく出口に近いところで。

懐に入れている手を抜こうとしない。

その手は、例の『護身用』フラスコを握りしめている。

ニーナはクランチの近くで。

結構近くまで寄って、どう変化するか嬉々としている。

その目は、ワクワクと期待で輝いている。

・・・。

・・・。

しばらく時間がかかりそうだ。

「――あのデビルさんには何をあげるか考えながら様子見といきましょう」

化学者だけあって、ブリオは細かいことまで抜かることは無かった。

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