Chapter16(2/5ページ目)
ブリオの化学研究
計算。
調合。
薬剤投与。
そしてレポート。
「・・・こうすればアドレナリンが異常に上昇して、面白いことになりますねぇ〜」
笑い、ウキウキしながら恐ろしいことを言うのは本当に不気味だ。
ただ、このときのブリオが才能で輝いていることもまた事実だった。
そして今、目の前で実験は最終段階に入ろうとしている。
「これ、まだ完成しないの?」
ニーナはブリオに焦れったそうなイライラ声で尋ねた。
彼女が見た感じ、それはもう完成しているように見えた。
・・・というより、変化があまり無くて、ブリオがちゃんと仕事をしているのかと訝っていたのだ。
実は何にも出来ていないんじゃないか。
でなければ、完成していても、完成宣言を渋っているんじゃないか。
ニーナは、ブリオに対してこんな懐疑の念を抱いていた。
ただ、ブリオが言うには大丈夫とのことだった。
「・・・フン」
ニーナが聞こえよがしに鼻息を荒くした。
ブリオは一瞬だけ作業の手を止めたが、振り向くこともなく薬剤の調合作業に戻った。
・・・。
「・・・どうかしましたか、ニーナ様?」
ブリオは、やはり振り向かずに唐突に切り出した。
過去に一度裏切った相手の姪っ子とは言え、権威上はコルテックス一族のほうが上だったので、敬称をつけるのは忘れなかった。
「ブリオ・・・あんた、本当にあたいに協力する気があんの? そのようにはさっぱり見えないけど」
「失敬な! ワタシがそんなことを思うとでも?」
「あら、前科はあるじゃない」
「あれは・・・」
「ほら、やっぱり」
「ヒィィッ、そっ、それは過去の話ですっ」
「だから事実なんでしょ」
「第一、今はあのときほど敵対していません!」
「だったら――」
ニーナはフラスコのひとつを取り上げた。
そしてもうひとつ。
ひとつは緑、ひとつは黄色。
緑の液体は、心なしかうごめいているようにも見えて、気持ちが悪い。
「――これ、今は必要ないんじゃない?」
「・・・」
「あたいだって少しは分かるんだから。これ、相手を攻撃するスライムよね」
「・・・勝手にいじらないで下さい」
ブリオは静かに、妙に落ち着いた声で言った。
「あたいが頼んだのは、このバンディクーの洗脳と改造よ、武器なんて頼んでない」
「それ以上口答えしたら――」
「『そのスライムをけしかけますよ』?」
「一応申し上げておきますが、既にその液体にはワタシの心をフィードバックさせてありますからね・・・」
「あら、でもこんなんであたいを止められるとでも思っているわけ?」
ニーナはバカにするような声で言った。
実際、言葉にはかなりトゲがあった。
一方、ブリオは一寸とも怯む気配がない。
「そしたら、最後の手段を使うまでですよ・・・」
白衣から、深緑の液体が入ったフラスコを覗かせた。
何故か『護身用』という紙が貼り付けられている。
ニーナは眉を片方だけひそめた。
「それ・・・何?」
「ワタシのブラックボックス技術ですよ」
「ところで、ちゃんとやってくれるの、くれないの?」
ニーナはブリオに詰問する。
「わ、分かってますよ、もう・・・」
「早くしないと、バラすよ・・・?」
「何を?」
ブリオが少し怯んだ。
「バラすって言ったら、あのことしか無いでしょ」
「!・・・どこで聞いたのですか?!」
「風の噂だって(・・・本当はただ脅してるだけ♪)」
「うぅ、分かりましたよ・・・そこに黒い液体が入っているフラスコがあります・・・」
ブリオは急に元のひ弱な印象に戻って、ニーナにフラスコを取るよう頼んだ。
「・・・はい、今度は何の液体なのさ」
フラスコをぶっきらぼうに渡すニーナの言葉もぶっきらぼうだ。
「黒と言うのは、いわば悪の象徴のようなものです」
ブリオは静かに語り始める。
「黒は何色をも支配してしまいます。例えば・・・」
ブリオは幾つかのフラスコを取った。
「ここに、赤、青、黄色の薬品があります、これらは、これから使う黒い薬品の元になっているんですよ、ヒヒヒッ・・・」
「これらを正しい配分と順番で化合させると・・・」
ブリオは、手慣れた手付きで調合を進める。
すると薬品は、ニーナに取らせた黒の薬品と瓜二つになった。
「――どうです、黒は何者をも支配する、そして誰しもが黒になりうるのですよ」
「白はどうなのさ」
ニーナが聞いた。
「白と黒は対立の関係、しかし・・・」
「?」
「絶妙なバランスで組み合わさったとき、それらは中和されるのです」
「それじゃ、悪も何も無いじゃない! 黒は絶対じゃないの?」
ニーナはさらに聞いた。
だが、ブリオはこう答えた。
「・・・人のやることに絶対なんていうもんは無いんですよ」
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最終更新日(11.04.13)
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