Chapter13(6/6ページ目)
会いたい、けど会えない
「うっ・・・うっ・・・」
丁度目の前のいちゃいちゃぶりを見ていたクラッシュは、微妙に体が震えていた。
ジャッキーは、「よしよし・・・」とクラッシュをなだめていた。
シカゴの寒く、そして冷たい空気が二人の周りをなめる。
辺りは、灰色の高いビルが沢山建っていた。
ビル風の影響か、この辺りの風はとても強かった。
「ピ――ピンストライプめが・・・」
クラッシュからは、憎しみの塊が滲み出ている。
「ダメだ、そんな格好であそこに行くなんて」
ジャッキーは、タウナとピンストライプのマンションに飛び込もうとしているクラッシュを押さえるのに必死だった。
クラッシュ本人も、背中の惨事については良く分かっていたけど、憎しみの気持ちのほうが大きいようだった。
さっきクラッシュがトレーラーに轢かれそうになったとき、思わず身を屈めていた。
クラッシュは元々小柄な体格だったから、体は無事だった。
でも、背中は少し――と言うより、かなりダメージを受けたようだった。
「・・・詳しく書かなくてもいいから、説明は早く済ませてくれ」
はいはい。
トレーラーの吸気系統のパイプは、クラッシュが思っていた以上に低かった。
特に、マフラーはパイプが膨らんでいるから、それを避けることなんて出来なかった。
マフラーのパイプとクラッシュの体が思いっきり擦れた。
トレーラーが過ぎた後にジャッキーがその背中を見たとき、既に赤剥けていて、とても痛そうだった。
救急箱なんかは持ち合わせているわけないし、ジャッキーが持っているのは毒針ぐらい。
まあ、前のジャッキーであれば、クラッシュをやっつける『またとない』チャンスだったのかもしれないが・・・
とりあえず、ゴミ置き場から使えそうな毛布を見つけたので、ジャッキーはクラッシュに被せようとした。
でも、クラッシュは「バイ菌が入るから」とか何とか言って、毛布を被りたがらなかった。
お陰で、フサフサの毛があった背中は、寒さに悲鳴をあげることになった。
「クラッシュ、本当に大丈夫なの?」
ジャッキーはクラッシュの様子を見ながら聞いた。
クラッシュは寒さにガタガタ震えていた。
もしかしたら、自分の背中を笑われたらどうしよう、という不安に陥っていたのかも。
「・・・何とか大丈夫だけど」
クラッシュは歯をガチガチさせながら答えた。
元々寒いのに、背中がこの有り様だから、もう大変だった。
それでも、ジャッキーが用意してくれた毛布を被ろうとはしなかった。
毛布は、今はジャッキーが被っていた。
背中の針を逆立てたら、一瞬で破れるだろう。
実際、今のままでもビリッと裂けてしまいそう。
「このほうが温かいのに」
ジャッキーが言った。
「でも、そんな『こじき』みたいな格好なんて出来ない・・・」
クラッシュは小さな声で言い返した。
「・・・」
そうか、とジャッキーは思った。
クラッシュは、ただ恥ずかしいから毛布を被りたくないだけのようだ。
「バイ菌が入るから」というのは嘘の口実だった。
(確かに、毛布を被りながら歩くなんて、周りからは変に思われるかも知れないけど――でも、背中が丸裸なのはもっと恥ずかしいよね・・・)
ジャッキーは考えて、もう一度言った。
「やっぱり、被ったほうがいいよ・・・っていうか、その格好のほうが恥ずかしいだろ、普通」
「・・・そうかも」
クラッシュはジャッキーから毛布をもらい、背中の傷を隠した。
「はぁ・・・あったかい――」
・・・。
しばらくして。
「もう、タウナのことはいいの?」
ジャッキーが聞いた。
「え?」
クラッシュは聞き返した。
でも、絶対聞こえている、とジャッキーは思っていた。
嘘をつく必要なんて無いのに。
「クラッシュ・・・?」
「もういいよ。戻ろう」
クラッシュは、半ば諦めムードだった。
二人はビルの合間を抜け、海岸へと歩き始めた。
「そろそろ、何か食べたいね・・・」
「ああ、でも、お金忘れちゃったんだ。早く戻って、リンゴでも食べよう」
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最終更新日(11.04.13)
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