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チョロQ 最速伝説?


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Chapter 13 レベル入れ替え 前夜編

夜の深い闇は、あっという間にやってきてしまった。

僕は、リュウム湿原のあたりを走っていたが、もうあたりは真っ暗だ。

アンブレラポートとウエストビーチはとても離れているから、これでも飛ばしたほうだ。

本当はフェリーを使って一気にウエストビーチに行きたかったけど、あまりお金は使いたくない。

今は貯蓄しておかないと。

マウンテン・マウンテンで見た、上位パーツの値段をみればすぐに分かることだ。

今思い返してもため息が出るばかりだ。

あれだけお金がかかるとなると、さすがに安易にお金を使うわけにはいかない。

そうなったら、自分の足で走るまでだ。

途中では、川の中を走る。

冷たくて嫌だと思ったけど、猛スピードで走って火照ったボディは、むしろ喜びの声を上げている。

もしかしたら、そのままのペースで行ったら、オーバーヒートしていたかも。

川に入って良かったなぁ・・・

そんなことを思っているうちに、いつの間にか道が川から陸になっていた。

そして、『Welcome to westresort〜ようこそ西のリゾートへ。〜』の看板が見えた。

夜だと、看板は一層歓迎ムードを表していた。

湿原は木々が鬱蒼と生い茂ってとても暗いのに、看板だけ煌々としている。

僕は、この前よりも来れて良かったと感じた。

でも、ホッとする暇も無い。

早くウエストリゾートに着いて、休みを取らないと・・・



「よっ、元・・・気じゃないみたいだな、どうした?」

僕は、ウエストリゾートのQ'sファクトリーに着くなり、息も絶え絶えにへたり込んだ。

レッカーのおじさんはいつものフレンドリーな挨拶をしようとしたが、そんな僕の様子を見てすぐに駆けつけた。

「ハハハ、ただ疲れただけですよ・・・ハァ、ハァ・・・」

「相当走ってきたみたいだな。長旅か?」

「いや、用事で3時頃までアンブレラポートにいたんです」

「ほぅ・・・じゃ、かなりハイペースで来たってことだ」

「はい・・・で、明日はレベル入れ替え戦があるので、今日中にはここに着きたかったんです」

「おお、お前も出るのか。新しい敵の情報は集めたのか?」

「えっ・・・?」

僕はキョトンとした。

「いや、だって、相手を知らないことにはどんな走りをしてくるか分からないだろう」

「でも、ちょっと時間が・・・」

調べる時間が無かったのは事実だ。

むしろ、後々になって身の危険に関わることについて色々と聞かされた感じだった。

「そうか、じゃあ俺が少し教えてやろう」

「えっ、本当ですか?!」

「でないと不利になるだろう。それより、まずどこかで落ち着かないか?」

僕たちがいたのは、Q'sファクトリーの出入り口の真ん前だった。

丁度ガラス越しの外で、イライラした顔のチョロQがこちらを睨んでいた。



僕とレッカーのおじさんは、奥の整備室に入った。

話をしてくれるついでに、僕のマシンのチェックもしてくれるそうだ。

相当無理をしたから、もしかしたら、ということでやってもらうことになったのだ。

「・・・うん、タイヤとシャフトあたりは問題ないな」

「そうですか」

「ああ。えっと・・・ああ、そうだ・・・レベル2の敵のことを話すんだったな」

「・・・」

「明日お前たちが戦うのはレベル2に出場するチョロQのうち、下位4台だ。お前たちは、確かBグループだったな」

「B?」

「だって、たった4台しか入れ替わらないんじゃ、昇降の激しさも無くなるだろ」

「じゃあ、僕たち以外にもいるってことですね」

「当たり前だ。レベル1のレースなんてあちこちで頻繁に開催されている。初心者の駆け出しレーサーが多いんだからな。
そして、その分レベルアップの機会も与えないといけない。上位レベルのチョロQは、そんな彼ら相手に立ち向かってくるわけだ。
下位レベルの奴に負けるなんて、恥も同然だからな・・・」

「そうですか・・・」

「で、Bグループの敵は・・・まず『ブラウンハンター』からいくか」

「『ハンター』?」

「別にそこは気にすることはないだろう。命を狙ってくるわけでは無い。彼の走りは、実にマニュアル通りだ」

「・・・と、言いますと?」

僕は尋ねてみた。

おじさんは、マフラーをチェックしている。

「良く言えば堅牢確実、悪く言えば機転が利かない」

「へぇ・・・」

「彼は一見地味な走りをするが、いつの間にか抜かされていることもある。特に、奴のカーブでのグリップ走行はかなりのものだ」

「僕はドリフトで攻めるかな」

「そう上手くいくかねぇ・・・とにかく、隙が少ないから気を付けるんだ」

「はい・・・」

1台目はブラウンハンター。

マニュアル通りな走りをする、隙の少ないチョロQだ。

「次に・・・『ハイドロチャンプD』だな。新チョロQワールド出身だ」

「あっ、ハセガワ3131と同じだ」

「うん、もしかしたら、彼に聞けば良く分かるかもな」

2台目はハイドロチャンプD。

ハセガワ3131に会えたら、すぐに聞こう。

「お次は・・・『ピース』だな。聞いたことが無いだろう」

「はい、確かに」

「彼はドジッた運転で相手を惑わす。ちょっと危険な奴だな」

「平和『peace』とは大違いですね」

「おい、ちょっと寒いぞ・・・」

3台目はピース。

ワザとドジッた運転で相手を惑わすチョロQだ。

「最後は・・・『グランポール』、ちょっと珍しい名前だな」

「で、そのチョロQの特徴は?」

「お前に似ているかもしれん」

「へっ?」

「だから、決まった走りというのが少ない。お前もそうだろう」

「僕は別に・・・」

「俺がお前のレースを見る限り、その場その場の走りが多い気がするぞ」

「あれ、見たことあるんですか」

「お前はレベル1の中で一際目立っている、噂のルーキー的存在だ。俺がチェックしないとでも?」

「そうですか・・・アンブレラポートのおじさんとは大違いだ」

「ああ、あいつはレースには無頓着だから、あの街にいるんだ。あそこには公式レースが無い」

「・・・非公式レースもあるんですか?」

僕は思わず突っ込んでいた。

わざわざ「公式」なんて言うものだから、「非公式」もあるはずだと思った。

そして、おじさんの作業の手が一瞬滑った。

丁度、フロントの吸気口のクリーニングをしているときだった。

僕は思いっきりくしゃみをしてしまった。

「・・・それは置いておこう。一応、『ある』とだけは言っておこう」

「・・・」

「さ、大体敵の特徴は分かったか?」

「はい、ありがとうございます」

「あと、軽くお前のコンディションをチェックしてみたが、特に異常は無い。後は休んで体力をつけておけば大丈夫だろう」

「はい、それじゃ、そろそろ休ませてもらいます」

僕は整備室を出て、ファクトリー奥のパーキングエリアに向かった。

今日は無理しすぎたから、本当に休まないと。



だが、すぐには休めそうに無いものがそこにあった。

僕に気付くなり、すぐに声をかけてきた。

「よう! 1ヶ月振りだな!」

「やあ、久し振り」

バラートとハセガワ3131だ。

2台とも、このファクトリーに泊まっていたようだ。

僕は嬉しい反面、早く休みたい気持ちもあった。

だが、最終的に嬉しい気持ちが勝った。

「わあ、2台ともここにいたんだね」

「まあな、それより・・・どうだったか? この1ヶ月は」

「うん、まあまあ」

「何だよ、その中途半端な返事は・・・」

「色々あったからね。そっちはどうなの」

僕は逆に尋ねた。

「俺はジムカーナやチョロザンヌ山で走りの特訓さ。バーニング走行に一層磨きがかかったぜ」

どうやら、バラートはひたすら走行練習に打ち込んだようだ。

僕は視線をハセガワ3131に向けた。

「あっ・・・僕はね、デスマッチに出てたんだ」

「デスマッチ?」

「うん、僕の出身の地方ではね、流行りなんだ」

「そもそも、それって何をするのさ」

「ぶつかり合い」

ハセガワ3131は、ただ単純に僕にそう言っただけだった。

僕は、次の言葉を促した。

「僕の取り柄といったら、まだブロックぐらいしかない。まずは、そのブロックの腕を磨こうと思ったんだ。そういう意味では、まさにうってつけの場所だったからね」

なるほど、身を削ってブロックに磨きをかけたわけか。

「じゃあ、アグネス君はどうなのさ」

ハセガワ3131は僕に尋ねてきた。

「僕は、マウンテン・マウンテンに行っていた」

「へぇ、あの高い山だね」

「そう。で、そこで畑仕事をしていたんだ」

「畑仕事?!」

そう突っ込んできたのはバラートだ。

「そんなの、どんな意味があんだよ、おい」

「それがね、意外と足腰を鍛えられるんだ。実際、かなりタフになったしね」

「そうなのか」

「それよりさ、レベル2の敵ってどんな奴だろうね・・・」

僕は2台に聞いた。

こちらはこちらで、また色々話を聞きたかった。

「名前は『ブラウンハンター』『ハイドロチャンプD』『ピース』『グランポール』だな」

「僕、ハイドロチャンプDなら知ってるよ」

ハセガワ3131は、自分からそう言った。

この調子なら、僕から切り出す必要も無いか。

「彼女はね・・・」

「あれ、女性レーサーなの?」

僕は聞いた。

「うん、僕よりいつも『ちょっとだけ』速いんだ。堅牢な走りが特徴」

「それじゃあブラウハンターと同じじゃないか」

「あ、そうそう――」

バラートも入ってきた。

「そのブラウンハンターって野郎、俺と同じボディだったぜ」

「そりゃ奇遇だなぁ」

「まあ、彼は黄土色だから、見間違うことは無いだろうけどな」

「あとは・・・」と僕は続けた。

「――ワザとずっこけて相手を翻弄させる『ピース』に・・・」

「――お前とよく似た走りの『グランポール』だな」

バラートが後を続けた。

僕は、自分の走りがどのようなものなのかいまいち良く分からなかった。

そもそも、客観的に見たことなんて無かったような気がする。

僕は、バラートとハセガワ3131に聞いてみた。

「ねえ、『僕の走り』って、そもそもどんなものなの?」

「えっ?」

「だってさ、自分のことって意外と分からないものでしょ?」

「うん、それも一理あるね。アグネス君はね・・・」

「そうだな、お前はな・・・」

2台とも、少し考えているようだった。

そして、同時に口を開いた。

「臨機応変なオールラウンダーだよ」

「オールラウンダー?」

僕は聞き返した。

どこでもそれなりにこなせて・・・いたっけ?

「おぅ、お前って、どんな状況でも何かとクリアしてるじゃねぇか」

「うん、僕もね、君はどこでも自分なりの走りで攻めていると思う」

「・・・でも、僕とグランポールの走りが似ていると問題あるのかな」

「大アリに決まってんだろ。分からないのか?」

僕は考えたが、分からなかった。

「要するにだな、互いの手の内が見え見えなんだよ」

「・・・あっ」

僕は少しだけピンときた。

「さっ、そろそろ休もうぜ。明日が明日なんだし」

「そうだね、僕も休ませてもらうよ・・・」

バラートとハセガワ3131は個室に戻ろうとした。

「ぁ・・・待って」

僕は、思わず引き止めてしまった。

なんでだろう、とにかく、一人になりたくなかったのかも。

「どうしたんだ?」

バラートが聞いた。

僕は引き止めてはみたものの、特に用事なんて無かった。

ああ、どうしよう、言葉が出てこない・・・

・・・

・・・あっ、そういえば――

「あ、あのさ・・・」

「?」

「明日のレースが終わったら、一度家に来てみないか?」

一度、レース以外でも2台と一緒に話がしたいと思っていたのを思い出した。

暇があるとすれば、レベル別レースが始まる前までじゃないかと思ったんだ。

2台は、特に抵抗を感じていないようで、むしろ受け入れてくれた。

「いいな、行こうぜ」

「楽しみだな♪どんなところだろう」

「うん、楽しみにしてて。じゃあ、また明日」

僕らはそれぞえ個室に入り、明日のレベル入れ替え戦に備えて休みを取った。



さぁ、これからがいよいよレースも本番だ。

気合を入れていくぞ・・・!

――僕はそう心に誓い、次の瞬間にはもう夢の世界に入っていた。

例の悪夢も、僕の意志には勝てなかったようだ。

今日見た夢は、僕たち3台が最高峰のグランプリで勝負している夢。

いつか、こんな姿も現実になるのかな・・・



QC暦0098年5月10日(日)
走行距離 280Qkm
所持金 9250G
ポイント 14ポイント
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