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チョロQ 最速伝説?


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Chapter 10 すろーらいふと港の生活、そして用事 (前)

マウンテン・マウンテンに来てから3日目。

アグネスは意外にもトレーニングに励んでいた。

アーパスさんの沢山の優勝カップを見て、気でも変わったのだろうか。

「はっはっはっはっ・・・・あ〜、なんかずっと同じ景色だとつまらないというか、やってられないんだよねぇ」

アグネスはランニングマシーンで持久力をつけるトレーニングをしていたが、飽きてしまったようだ。

アグネスにしてみれば、走っているのに景色が変わらないのは嫌らしい。

他の器具も使ってみたが、どれも長持ちしなかった。

「ちぇ、こんなことになるならトレーニングしに来るんじゃなかった。――そうだ、アーパスさんのところへ行ってみるか」

アグネスは今日もアーパスさんにお世話になることにした。



「やあ、アグネス。今日は何の用かな? パーツ交換かい?」

「あの、えっと・・・畑仕事をさせて下さいっ」

「えっ・・・そうか、じゃあ、道具を持ってくるから昨日会った場所で待っててくれるか」

「はい、じゃ、先に行っていますから」



アグネスはアーパスさんの畑へと向かう。

最初ココに来たときは空気が薄くて少しクラクラしたけど、今は大丈夫だ。

慣れてきたのだろう。

こうして見回してみると、なかなかいい所だな・・・

空は清々しく晴れ渡り、太陽が笑いかける。

雲は自分の下を無心に流れている。

そして、純粋な心を持ったやさしい住民達・・・

僕、将来はここで暮らしてもいいかもしれない・・・

その時、アグネスは畑の向こうでコソコソ動く影を見た。

どこかでみたような色と形をしているけどどこでみたか分からない。

・・・あっ、向こうに行っちゃった・・・あれは誰だろう・・・



アーパスさんの畑に向かうと、そこは一面土だった。

今はまだ4月。

これから種を植えたりする時期だ。

どんなモノを作るのか、ちょっと楽しみだ。

僕は一度も農業に従事したことは無いけど、何か楽しそうだ。

とりあえず、まずは土を掘り返す作業から。

この作業、僕が思っていたよりもはるかに過酷なものだった。

シャベルを土に挿す。

掘り起こして、戻す。

この作業を延々と続けた。

やっているうちに、だんだん僕の体力が奪われていく。

集中力も途切れてきて、うかうかしているとアーパスさんに少し注意された。

「これ位でへこたれてどうするんだ」って。

注意されてから、また作業に戻る。

やり始めたときとは比べ物にならないほど気分は落ちていた。



気付いたら、既に夕方になっていた。

昼食抜きで8時間近く働いていたようだ。

「やっ、こりゃ良く頑張ったな。なかなかいい出来だ。じゃ、今日のお駄賃だよ」

アグネスは10000Gもらった。

ちょっと多めな気がするけど・・・

「ありがとうございます、僕はもう宿に戻りますから・・・」

「うん、じゃあな。明日も待ってるぞ、ここに朝の5時だぞ」

「えっ!・・・あの・・・は・・ぃ」

かなり動揺してしまった。

10000Gあげたから明日も来い、ってことか・・・

アグネスは曖昧な返事をして、アーパスさんに別れを告げた。



「はぁ・・・今日は疲れた。もう寝よう」

アグネスは宿について自分の部屋に入ってすぐに寝てしまった。

よほど疲れていたのだろう。



ところ変わってここは空き家。

謎のアグネスにそっくりな奴がいる。

目的は何なのだろうか・・・。

「フフフ・・・5月8日・・・この日がいいか・・・」

この日に彼は何をするのだろうか。

まあ、その時に分かるだろう。



さて、ところ変わってここは新チョロQワールド。

ハセガワ3131はここに戻っていた。

「さて、僕はどんな対策をしたらいいのだろうか。
とりあえず、コースの情報はつかんだ。僕とバラートが出場して、事故っちゃったコース。
橋はまだ直っていないから、夜の海で使われる道を使う。
途中にトンネルがあって、その中は曲がりくねっている。でもそれ以外は海と同じ。
あの時は、車体の重さが功を成したといってもいいかもしれない。
ということは、そこに力を入れればいいのか・・・・で、どうやればいいのか・・・そうだ、確か――」

ハセガワ3131はあるものを探し出し、見つけた。

「これだ、あったぞ。ちょっと恐いけどね・・・」

そしてハセガワ3131は家を出て行った。



ここはチョロQタウン・ジムカーナ場。

そこにはバラートがいる。

ブラック・マリアに会った次の日から、毎日ここに通いつめている。

「俺は、ひたすら運転の技術を磨いてやる! そのためには、ジムカーナが手っ取り早い。
30秒を毎回切れるようになるまでやって、ショッピングモールでぐるぐる回って、郊外の周回道路も回ってみよう。
とにかく、次のレースからは腕で勝負してやるっ!」

バラートは、熱く、堅い決心を胸にジムカーナを攻めまくる。

ことろで、夜の海はオフロードコースなのに、バラートは舗装路やレンガの道を走りまくっているスケジュールになっている。

こんな感じでいいのだろうか。

バラートは、チョロ砂漠の経験から無計画は良くないと感じたはずなのだが・・・



それから何日も過ぎ――



今日は5月6日の木曜日。

あと二日でアグネスはマウンテン・マウンテンを下山する。

振り返ってみると、それほど効果が無いような気もした。

トレーニングは、ほとんどしなかった。

畑仕事はしたんだけど。

そう、月日は矢の様に去っていってしまった。

時間は・・・戻せない。

ただ、そう落ち込んでばかりいられない。

ポジティブに考えていかなければ。

そうしないと、何も始まらないではないか。

アグネスは、急に狂ったようにトレーニングを始めた。

こうすれば、何とかなるはずだ! 体力と足腰を鍛えて、長期戦なら負けないだろう。

後はパーツを揃えるだけだ。



今日は5月6日の木曜日。新チョロQワールドのとある家だ。

ドアが開いて、ハセガワ3131が入ってきた。

彼は、とても疲れていた。

まず、身なりがすごいことになっている。

ボディのあちこちにキズやへこみなどが出来ていた。

ボンネットからはたまに煙が出てきている。

彼は、デスマッチ大会に参加していたのだ。

彼は、元々強みであった頑丈な車体という性質を、もっと強くしようとしたのだった。

そのお陰で、今までに増してブロックは上がったし、体力もついた。

後はパーツを揃えるだけだ。



バラートは燃えていた。

今日は5月6日。

本番は11日だ。

だんだんと迫ってくる本番に、バラートは燃えていた。

今日は、チョロザンヌ山でダートコースの練習だ。

「今まではジムカーナでテクニックやライン取りをつかんできた。今日からは実践演習で走りまくって、アグネス達に差をつける!」

という信念のもと、春の山(もう桜は散っているけど)をフリー走行した。

これで、本番は絶対に勝てるはずだ。

いや、勝ってやるんだ!

体力とテクニックは付いたはず。

後はパーツを揃えるだけだ。



ついに下山の日が来た。

一ヶ月弱のココでの暮らしにサヨナラを告げるときだ。

まさかとんでもないハプニングが起きるとは思っても見なかった。

「じゃあ、1ヶ月間お世話になりました」

「うん、またおいで。いつでも待ってますよ」

まずは、ホテルの係りの人に。

「また、逢えたらいいですね。レース、頑張ります。そして、あの時の言葉、心に刻んで覚えておきます」

「うん、いい心がけだ。忘れるんじゃないぞ」

「はい、『忘れるまで』覚えておきます」

「・・・」

アーパスさんにも言った。

なんか、いろいろな人にサヨナラを言うのは寂しかった。

この後思い返してみると、迷惑をかけた気さえした。

アーパスさんや、他の人もみんな、働いているのに。

忙しいのに。

そんな中、お別れのサヨナラを言うのはやっぱり悪かったような気がする。



今度こそ本当に下山する。

アグネスは、下を見てみた。

――何も見えない。

見えるのは、自分の足元と雲のカーペットだけだった。

初めてココに来たときと比べると感じ方が変わっていた。

びくびくしながらもなんとか7合目まで来た。

アグネスは、少し休憩していた。

「はぁ、下りも意外と疲れるんだな・・・」

その時。

「ハイイイィヤアアアァァァーーーーッッッッ!」

「?!?」

「そこのお前!」

「・・・え?! 何?」

「俺と勝負しろ!」

「え〜、疲れたからやめとく・・・」

「問答無用だ!――こっちにこい」

アグネスは渋々、声のする方向へと向かった。

そこは、少し広めの道で、所々にデコボコがあるものの、木や岩は無く、平坦な下り坂だった。

そして、そこに一人(一台)のチョロQがいた。

アグネスと同じボディ、同じカラー。

でも正反対な性格。

アグネスは、開いた口が塞がらないかのよう。

「――ぼ、僕の・・・そっくりさん?――なはずないか。世の中広いから、こんなこともあるんだろうな。ところで、何の用事かな?」

「さっき言っただろ! 俺と勝負するんだ。――まったく・・・『昔から』物覚えの悪い奴だな」

「そんなはずな――『昔から』?・・・」

「まあ、これはどうでもいい。とりあえず、ルールを説明する。この坂を下る。それだけだ」

「えっ。・・・そういえば、ここは冬場、スキー場にな――」

言いかけたが、遮られた。

「そうだ。いわゆるダートスキーだ。これは下のリュウム湿原まで続いている。早くそこに着いたほうが勝ち。
負けたら、5000G勝ったほうに支払うのはどうだ」

「いいんじゃないかな、ところで――」

「さ、スタートラインに着けよ」

「いや、あの・・・はあ、仕方ないか・・・」

「よし、それじゃ、俺の合図でスタートだ。一番下の、リフトの乗り場の近くにフラッグが立ててあるから、それを先にとるんだ。下りのコースしかないからな。作戦は勝手に考えろ」

「うん、オーケーだ」

「じゃ、いくぜ・・・3・・・2・・・1・・・GO!」

2台のチョロQが麓を目指して駆け出す。

まるで、2本の矢のように。

まるで、2組の青い稲妻のように・・・

――と言いたいが、まだレース界では新人扱いのアグネスと戦うのはやはり同じようなレベルのはず。

そこまで速くは無い。

途中、アグネスは岩にぶつかり、大幅なタイムロスをした。

そのまま差は縮まらず、奴が先にゴールした。



「じゃ、俺の勝ちだな。5000Gもらおう」

アグネスは、アーパスさんにもらった10000Gのバイト代から5000Gを渡した。

「ほら、やるよ(せっかく働いたのに・・・)――ところで、君って――」

「じゃ、また会うかもな、ハッハッハ!」

「・・・」

奴はリュウム湿原の中へと消えていった。



奴、一体誰なのか。

アグネスは、正体が分かりそうな気がした。

というのも、あの熱血漢・・・という程ではないか。

あの馬鹿・・・でもないだろうな。

とにかく、近い感じがする。

ただ、はっきり言える事がある。

それは、兄弟ではないということだ。

僕の兄弟で同じ色はいない。

車種も微妙に違う。

でも奴は、どちらも同じだった。



それは、僕が12歳のとき。

兄さんが家を出て行ったんだ。

「俺は世界一の男になる!」って。

それ以来、姿を見せていない。

それから6年も経ったのだから、ボディを変えてもおかしくはないが、兄さんは不器用な人じゃない。

ちょっと単純なところはあるけど、優しい人(チョロQ)だ。

だから、さっきのは多分違う奴だろう。



「――まあ、考えていてもらちが明かない。とりあえず、家に戻ろう」

僕は帰路に就こうとした。

でも、その前に何となく登山者ノートを見てみた。

すると・・・

「一番新しいのは・・・ブラック・マリア? 行き違いになったのかな」

ノートの一番下にはブラック・マリアの名前が書かれていた。

その上にはあのセカセカとした秘書のエスペルの名前がある。

どうせなら、もう少しだけ上にいればよかったな・・・

そうすれば、まだマリアさんに会えるし、話も出来る。

「――でもいいや。その内また会えるよね。今度こそ帰ろう」

僕は家に帰ることにした。

しかし、家では知らせが待っていたのだ。



「ただいまー」

「あら、お帰りなさい、アグネス。ちょっとは逞しくなったかしら?」

「う〜ん、どうだろうね」

「ところで、リオンから手紙が来ているわよ」

「兄さんから? 何なの?」

「さあ、あなた宛だったから私は見ていないわ」

「分かった、有難う」

アグネスは自分の部屋に戻って、手紙の封を開けた。



・わが弟、アグネスへ

まあ、なんだ、えっと・・・久しぶりだよな。急に手紙を送って悪いな。
実は、ちょっと話したいことがあるんだ。
ここでは書けない。こっちの事情があるからな。
もし5月10日が暇だったら、アンブレラポートのエスカルゴカフェに13時に来れないか。
もし無理でも、返事はいらないからな。

               リオン



・・・。

・・・。

『話したいこと』・・・いったい何なんだろう。

もしかして、やっぱりあれは兄さんだったのか?

とりあえず、行ってみよう。

次の日がレースの日だけど、船を使えばすぐに着く。

アンブレラポートといえば、船がよく出入りしている。

ハセガワ3131やバラートがチョロQワールドに入るときも、アンブレラポートから来たらしい。

「――まあ、善は急げと言うし、行ってみるか」



「母さん、ちょっとアンブレラポートに入ってくる。兄さんにそこに来てくれって言われたんだ」

「アンブレラポートねぇ・・・あそこってパッとしない町なのよね。あと、治安も悪いらしいから、気をつけてね」

「えっ、そうなの?」

「ええ、ギャングなんかもいるそうだから、気を付けないと・・・あっ、ごめんなさい、あなたはそういうのは苦手だったのよね」

僕は、銃とかホラーとかサスペンスとか、そういうものが苦手なんだ。

「じゃ、行ってくる・・・」

「・・・頑張って」

僕と母さんは、言葉を少なめに交わし、そしてアンブレラポートへ向かった。



(さて、アンブレラポートは・・・地下鉄が通っていないから、ゼンマイスポーツランドからチョロQ鉄道に乗ればいいのか)

僕は、ゼンマイスポーツランドへ向かった。

マウンテン・マウンテンに暫くいたせいか、パワーや持久力が上がったような気がする。

僕は、草原の一本道を今までに無い猛スピードで駆けていった。



「おっ、アグネスじゃないか、ロングサーキット以来だな。おやおや、大分疲れているじゃないか。どれ、見てやろうか」

僕は、ゼンマイスポーツランドでQ'sファクトリーに寄り、ロングサーキットのときお世話になったレッカー車に会いに行った。

この時、僕は既に疲労困憊だった。

ちょっと無理しすぎたのかも。

やっぱり、ここに寄って良かった。

「ふむふむ・・・クラッチが少し傷ついているな、ちょっと待ってろ」



「よし、これで完璧だ。どうだ? ギアの切り替えがスムーズになっただろ」

確かに。

ちょっと整備工場を走ってみたが、ギアが驚くほどスムーズに切り替わるようになっていた。

「うわぁ。凄いですね。ありがとうございます。お金は・・・」

「要らないよ。レーサーは無料なんだ。なんてったって事故はつきものだし」

「いいんですか。感謝、感謝、です!」

僕は、いい気分でファクトリーを出た。

さて、これからどうしよう。

すぐ電車に乗るか、ぶらっとするか・・・

そういえば、ここはスポーツランドだし、コースもいっぱいあるから、もしかしたら誰かいるんじゃないかな・・・

僕は、ちょっとスポーツランドの中を探検してみた。

しかし、誰も知り合いはいなかった。

(みんな、今頃何をしているんだろう・・・)

だけど、今の僕に走る由も無い。

今は、アンブレラポートへ急いでいかなくてはならない。

僕は、連絡通路から駅に入り、Qカラー王国方面の電車に乗り込んだ。

(はぁ、やっと休める。それにしても、本当にみんなは何をしているんだろう。きっと、頑張ってやっているんだろうな・・・)

何だか、僕だけレース界から置いてけぼりにされてしまった感じだ。

でも、そんなこと、ありえない・・・あるはずないさ。

僕は、自分にそう言い聞かせた。

そして、ジリジリしながらアンブレラポートに着くのはまだかと思っていた。



<えー、間もなく、アンブレラポート駅に到着します――>

僕は、そのアナウンスの声で目が覚めた。

今日は何だかとても長い気がする。

マウンテン・マウンテンを下山したのがずっと前のように感じる。

でも、下山したのは今日なのだ。

外は、既に夕焼けで、太陽は最後の光で車内を照らしている。

ずっと寝ちゃったんだな、でも通り過ぎる前に気が付いて良かった。

僕は、駅を出て周りを見渡してみた。

母さんの言い方からして、寂れた港町なのかと思ったが、実際は意外と活気溢れていて、すぐ目の前には市場があり、たくさんのチョロQ達が買い物をしている。

これが、治安の悪い町・・・?

まさかね、ハハハ。

でも、こんな時間なのにちょっと台数が多すぎる気がしないでもない。

「さ、まずは宿を探さないと。10日まではあと2日。路上で時間を潰すわけにはいかないんだよね」

治安の悪い町だから、路上で過ごすなんてとんでもない。

僕は、宿を探してみた。

あっ・・・でも、Q'sファクトリーのほうがいいかも。

何度も言う様だけど、あそこなら無料だから。

至れり尽くせり、といったサービスは無くても、整備はやってくれる。

今の僕にとっては、そっちのほうが重要だ。

僕は、歯車の看板を探してアンブレラポート市内を走り回った。



「うへー、ここって広すぎるよ。いくら走っても見つからない・・・」

僕は、見事に迷ってしまったようだ。

いくら走っても、同じような風景が続くばかりだ。

両側には大きなコンテナがいくつも積み重なっている。

もしかしたら、同じところをぐるぐる回っているのかもしれない。

「どうしよう・・・そうだ! 倉庫を探すんだ、多分――」

僕は、コンテナを収納する倉庫が無いか探した。

やっぱり広すぎて時間がかかったが、それでも何とか見つけた。

「この壁の何処かにQ'sレッカーの呼び出しボタンが・・・あった!」

僕は、そのスイッチを押した。

スイッチが点滅し、間もなくスピーカーから声が聞こえてきた。

<はい、こちらはアンブレラポートのQ'sファクトリーだ、何かあったのか?>

僕は横のマイクに向かって返答した。

「あのー、僕旅をしているんですけど、迷子になっちゃったんです」

<おお、そうか、そうか。この町は複雑に道路が入り組んでいる上、港はコンテナだらけでまるで迷路だ。 始めて来たらそりゃ迷うよな。よし、そこで待っていろ、すぐに迎えに行くからな>

「はい、ありがとうございます」

スイッチの点滅が消え、スピーカーも「プチッ」という音を残して切れた。

ふぅ・・・。

このスイッチがあって良かった。

無かったら、ずっとずっとこの港を彷徨っていたかもしれない。

そう考えているうちに、Q'sレッカーが来た。

「よっ、君かな、私を呼んだのは」

「はい、助かりました。Q'sファクトリーを探していたんです」

「ハッハッハ・・・港側じゃなくて町側にあるんだ、見当はずれだな。さっ、運んでいこう」

「いえ、自分で走れますから・・・付いていきます」

「ふーん・・・そうか、それならいいけどな」

僕は、Q'sレッカーの後に続いて町へと戻っていった。

途中、何度か見失いそうになったが何とか付いていき、無事にQ'sファクトリーに着いた。



「あのー、今日ここに泊まってもいいですか?」

「ああ、大丈夫だよ、ゆっくりしていきな」

はぁ。

今日は長い一日だった。

あれこれ考える前に、睡魔が襲ってきた。

僕は、また夢の世界へと旅立っていったのだった・・・



『お前達は私の捕らわれの身なのだ、逃げようなんて考えるなよ』

『・・・っく・・・!』

僕は、正体不明の敵に捕まっていた。

周りは真っ暗で何も見えない。

でも、僕の両隣で何かモゾモゾしているような音は聞こえる。

そして、目の前にはさっきの声の持ち主らしきチョロQがいるのだろう。

自分だけが、暗い暗い宇宙にポツンと浮いているようだった。

何だ? どうなっているんだ? 僕は困惑してしまった。

僕は、今のフロントタイヤの位置が何だか痛く感じたので、ちょっと右に動かした。

しかし、それが引き金になってしまった。

『おい! 動くな! 逃げる気だな・・・そう思ったことを後悔させてやる』

僕の目の前で、急に光の弾が飛んできた。

それは、僕めがけて飛んでくる・・・エッ!!!

『ウワワアアアアァァァァッッッッ!!!!』

僕は目の前が真っ白になった。



「・・・ハッ!・・・あれ・・・ここは・・・」

僕は、Q'sファクトリーの中にいた。

今のは夢だったのかな・・・いつも新しい場所に行くとこういう嫌な夢を見るけど、今回のは妙にリアリティがあった・・・。

僕の悲鳴(?)を聞きつけたのだろうか、さっきのレッカー車が飛んできた。

「おい、大丈夫か? 何かあったのか?」

「いえ、大丈夫です。夢を見ちゃって・・・新しい場所で寝たりするとよく変な夢を見る癖があって・・・」

「(嫌な癖だな・・・)そうか、それは大変だな。じゃあ、体に異常は無いんだな」

「はい」

「そうか、なら大丈夫だ。しかし、ここでは他のお客さんも眠っているんだ。夢の中の自分に静かにするよう言っておいてくれよ」

「あー、言えたら言いますよ、じゃ、おやすみなさい」

今度は、嫌な夢を見ずに寝ることが出来た。

そして、朝までぐっすりと寝たのだった。



そして朝。

今日は9日。

約束の日まであと1日・・・明日か。

何を話してくれるんだろう。

僕はマウンテン・マウンテンの下山中に出会ったあいつのことが気になっていた。

そのことに関して何か知っている可能性はあるのだろうか。

うつむいていると、レッカーのおじさんが来た。

「よお、おはよう。早いじゃないか・・・ン、どうかしたのか?」

僕はレッカーのおじさんに「またうなされた」と嘘をつき、礼をしてからQ'sファクトリーを出た。



どうしよう。

何となく、ここのQ'sファクトリーの人と気まずい関係になってしまった気がする。

これも、全部あの夢のせいだ――

ああ、兄さん、早く会いたいよ・・・

僕はくどくどいいながらアンブレラポートの市街地をずっとウロウロした。

これといった理由も無いが、かといってどこかに行くつもりも無かった。

時間が無駄に過ぎていくような気がした。

きっと、バラートなんかはこの間にもレースの特訓をしているんだろうな。

「・・・ハァ。最近病んできた気がするなあ。この町って娯楽施設とかあるのかなあ。あったらそこでストレス解消できそうだけど・・・」

こう思った僕は、町の地図を探し、そういった場所を探した。

パッと見、興味をそそるものは無かったけど、目を引くものはあった。



『無駄な時間を忘れよう! カッ飛ばして気分爽快! ドラッグレース!!』



「ほぅ、ドラッグレースか・・・僕、ちょっと怖いんだよな、まだ。
あんな猛スピードで走るんだし。でも、本当に今は暇なんだ。
もしかしたらレースの特訓にもなるかも知れないし、行ってみようかな」

僕はその地図と地図についていた広告を頼りに、ドラッグレース場までノロノロと向かった。



QC暦0098年5月9日(土)
走行距離 180Qkm
所持金 9250G
ポイント 14ポイント
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