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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


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Chapter 14 会いたくない、けど会う

クラッシュとジャッキーがタスマニアに戻ろうとしているとき、クランチは大変なことになっていた。

きっと、自分を運んできたのはスウィーティだ、間違いない。

手足をくくりつけられているのに気付いてから1時間は経った。

でも、何にも起きない。

なんだか、あのときと似ている気がする・・・ (まぁ、思い出したくもねぇけどよ・・・)

暇だから、いっそのこと叫んでみるか――

クランチがそんなことを考えていると、前の扉が開いた。

唐突だったから、クランチはビックリした。

(もしかして、スウィーティの野郎か・・・?)

開いた扉の向こうからゆっくりと歩いて来たのは――

・・・ブリオだ。

ニトラス・ブリオ。

クランチとの関わりは少ないが、クラッシュから話は聞いていた。

「超気まぐれ屋」らしい、それがブリオの印象だった。

ブリオは、何故かビクビクしながら入って来た。

「挙動不審」と言うほうが合っているかも知れない。

後ろを振り向きたいけど、怯えているせいでそれが出来ないと言った具合だろうか。

ブリオの後ろからはまだ何人か来るようだ。

まずは――

なんと、ニーナがいた。

ブリオはニーナに脅迫されたのか(そうに違いないと思う)、かなり怖がっている様子だった。

さらに、スウィーティも一緒にいる。

ニーナがブリオを怖がらせているのを楽しそうに見ている。

小悪魔のオーラをむんむんと振り撒いていた。

ヤバいぞ、この状況・・・。

これじゃ、まるで――

クランチは焦りからか混乱した。

もう、何がどうなってんだか。

(チッ――また最悪の毎日が戻ってくるのか・・・)

クランチは最悪の状況を想定した。

そして、この前よりも強く、クラッシュを一目見たいと想った。

願いが届けばいいのだが――



「・・・ん・・・?」

クラッシュは、ハタと立ち止まった。

丁度、ジャッキーと二人(匹)で乗ってきた飛行機とグライダーのところに着いたところだった。

クラッシュは愛機のオレンジバロンをチェックしようとしていたが、早速何かがあったらしい。

「どしたの?」

ジャッキーが聞いた。

「燃料切れ」

「へっ」

「遠回りしちゃったのがまずかったんだ。ギリギリしか積んでいなかったから・・・」

「・・・」

クラッシュは、タスマニアとシカゴの往復用燃料をギリギリしか積んでいなかった。

だから、さっき北極方面に行ったときに殆ど使い果たしてしまったのだ。

燃料は、周りが寒いほど大量に要るから・・・

グライダーは風があれば大丈夫だけど、二人で乗るのはさすがに辛い。

「クラッシュ、どうやって帰るのさ」

ジャッキーが心配して聞いた。

「このまま、ここに残るの?」

「・・・」

ジャッキーはいつもより眉間にシワを寄せ、少し考え込んだ。

クラッシュは、打開策を考えたいのか考えたくないのか、どちらとも取れない微妙な表情を浮かべた。

クラッシュが被っている毛布までも考え込んでいるようだ。

その間に幾度も冷たいさざ波が、ひんやりとした刺すような空気を二人にぶつけ続けた。

じっとしていると、ここの空気はとても痛い。

クラッシュなんかは寒がりなものだし、毛布をすっほりと被っていても、それは例外では無かった。



「・・・戻ろう」

クラッシュがそう呟いたのはしばらく経ってのことだった。

相変わらず辺りは寒く、身の拠り所はオレンジバロンの影と毛布の内ぐらいしかない。

「え? 戻るって、タスマニア・・・に? 今はどうやって戻るか考えて――」

「――いや、そういう意味じゃなくて」

クラッシュはジャッキーの返事を遮った。

ジャッキーは遮られたのが気に入らなかったのか、ちょっと不機嫌で怪訝そうな顔をした。

「じゃあ、どこなんさ」

ジャッキーはぶっきらぼうに返した。

「ココの会社」

「・・・あのさ、」

「何?」

「それ、本当に今思い付いたの?」

ジャッキーにしてみれば「何を今更」感を受けるような打開策に見えたらしい。

クラッシュはそんなジャッキーに対して、まったく引く様子は無かった。

「だったら、ジャッキーは先に何か思い付いてたっけ? オイラが先だよね」

「アー・・・うん、そうだね」

「じゃあ文句は言えないぞ」

クラッシュは、またココに何かやられるのを嫌っていたから、出来れば戻りなくは無い様子だが・・・

二人は、街の中に再び入っていった。

体が波打ち際の冷たい風に慣れたからだろうか、もう中心街のビル風は冷たく感じなかった。

むしろ痛く感じたのは、ボロボロの毛布を体に巻き付けたクラッシュへの周りの視線だった。

丸い目で見られるものだから、いてもたっても出来ず、益々足を早めた。



「――ココにはどう言うんだよ、え?」

ジャッキーは軽いテンションでクラッシュに聞いた。二人は会社の入り口手前にいた。

「何とか言うから平気。別にココなんて恐くないからな」

「まあ、据わっている分には平気だろうね」

「・・・面白がって言ってるだろ」

「そんなことないって」

「ジャッキーはいつもそうやって難を逃れるんだから・・・」

「いつもって、いつ?」

「あ・・・何でもない、忘れて」

「・・・」

「さっ、行くぞ。さっさと終わらせてしまおう」

クラッシュは自分に喝を入れて中へと入っていった。

ジャッキーはその後をノコノコ追いかけた。

中に入ると、さっきもいた受付嬢が、「また来たの?」という目でこちらを見てきた。

クラッシュの姿を見て、尚更厄介扱いしているようにも見える。

(それでも、毛布を被っているだけマシだろう。背中はさすがに見せられない)

「あの、今度はどんな御用――」

「ココに相談しに」

「はぁ・・・では、またこちらから繋ぎますので」

「急いでるんだけどな・・・まあいいや。宜しく」

クラッシュはロビーのソファーにふぅと着いた。

ジャッキーは先にソファーに着いていた。

(ジャッキーは背筋を立てて座った。背もたれにもたれたら、トゲが背もたれをボロボロにしてしまうからだ)

「なんか疲れるな、ああやって話すの・・・儀礼的に、って意味だけど」

クラッシュはジャッキーに言った。

「別にいいじゃん。もう終わったことだし」

「・・・って言うか――」

「?」

「最近体を動かしてないから、もう動きたくて堪んない、って感じ」

「クラッシュって活発なんだね」

「そりゃ、勿論ね。ダンスが日課になってる位だし」

「ふーん。どんなダンス?」

「うーん・・・皮ジャンが無いと気が乗らないな」

「皮ジャン?」

「そう、オイラのモテモテ・ロックの必須アイテム」

「ロック+ダンス・・・?」

「そうだよ、悪い組み合わせじゃないだろ?」

(記憶喪失している)ジャッキーに言わせれば、クラッシュがロックなんて想像も出来ないらしい。

確かに、能天気なところだけを見ていたらそう思うのは当然・・・と言うより必然と言えた。

「ボク、見てみたいな、クラッシュのダンス」

「へぇ〜、珍しいねえ、見たがるなんて・・・あ、いや・・・こっちの話」

「? 何のことか分からないよ・・・で、見せてくれるの?」

「見たい?」

「うん」

「ホントに?」

「うん」

「笑わない? バカにしない?」

「え・・・う、うん」

「・・・やっぱりダメ」

・・・。

ジャッキーは一瞬だけポカンとした後言った。

「だったら最初からダメって言って。期待して損したな」

「だって、毛布――」

「そういうことね。確かに踊らない方がいいかも・・・って、それで答えになるの?」

「どうだろ、分かんない」

「おいおい・・・」

それ以上話題が膨らむこともなく、二人はソファに座って待っていた。

ココは忙しいのか会いたくないのか、中々渋っていたようだ。

とにかく、ちょっと長くかかった気がする。

やっと二人が受付嬢に「お待たせ致しました」と言われたときには、ウトウトしかかっていた。

それでも重たくなりつつある瞼を開き、ココのいる社長室に向かった。



「そういえば、何でさっきから『ココが恐い』ってニュアンスで書かれてるの?」

確かに、まだ何にも説明していませんでした(汗)。

さっき――クラッシュが人探し機をもらった時――はココと一致団結したかのようでした。

でも、わざわざ時間を割いてもらってまでアドバイスをもらったのに、また戻ってきたら・・・

「また来たの?」となりますよね。

クラッシュはそうなることを予測して、幸先悪いことばっかり考えているんです。

まあ、人によって考え方は違うかもしれませんが、ココはあくまでこういう人・・・じゃなくて、バンディクーでした。

「なんか納得いったような、いかないような・・・」

そうですか。

ところで、今まで対話していたのは誰のセリフなの?

「ジャッキーと読者の心の声だけど、何か?」

いえ、別に・・・



とりあえず閑話休題、というのはここまでにして、そろそろ戻ります。

クラッシュはドアの前で手を伸ばしかけていた。

クラッシュの頭の中は不安だらけで、押し潰されそうなぐらいだった。

ココはどういう態度をとるんだろう。

入ったら、何かまたやられちゃうんじゃないか。

何もしてくれなかったら、オイラ逹はどうするんだろう。

って言うか・・・

なんでこんなに考え込んでるんだろう。

どういう結果になろうが、開けないとなんにも始まらないよな・・・

・・・。

・・・。

よしっ、――行くぞ!

クラッシュは意を固めてドアノブに手をかけようとした。

しかし――

ガチャッ・・・。

「・・・アッ」

「・・・そこまで恐がること無いでしょ?」

クラッシュは飛んでくるかもしれない空手キックに対して構えをとろうとしていたものだから、一瞬どうなっているのか分からなくなっていた。

ジャッキーは、対して驚く様子も見せない(驚くことが無かった)。

「私、そんなに恐い・・・の?」

ココは半ば傷つけられたように言った。

「え?・・・あ、いや――別にそんな訳無――」

「本当?」

クラッシュの言葉を遮って強く言った。

「ちょっと待って、そこだよ、問題は」

クラッシュはココの気持ちを押さえ付けるのに精一杯だった。

「そうやって突っ込んでくる聞き方がダメなんだってば」

「えっ・・・私、別にそんなきつく言ったつもりじゃ――」

「『言ったつもり』でもそう聞こえるのっ!」

クラッシュは語尾をちょっと強めて反論した。

ココは何か言い返したそうな、悔しそうな、そんな表情を覗かせた。

部屋の暖房の無機質的な音がブーンと低音を鳴らしていた。

「・・・お兄ちゃん」

「ん?」

「今のはキツい言葉だよね、自分の意見を相手に一方的に押し付けて」

ココはクラッシュの『っ!』が癪にさわったらしい。

クラッシュも少しカチンときたようだ。

クラッシュの、くるんでいる毛布がプルプル震えているように見えた。

「そういうこと言うならさ、自分のことを見直してから言えよ、オイラだって言いたくて言っている訳じゃない」

「・・・お兄ちゃんこそ――」

「なんだよ」

「自分の行動を正しなさいよね、周りにどれだけ迷惑がかかっているか知らないでしょ?」

この一言で、部屋の中に張り詰めた空気が光速レベルで広がっていった。

ジャッキーは目が離せないのと同時に、また忘れられていることに引け目を感じていた。

「何だよ、可愛くないのっ」

「そっちこそ、オツムの治療でもしてもらったら?」

「何だって?!」

「何か言ったらどうよ・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・フフッ」

「もうやめてくれよ、見苦しい!」

ジャッキーが思わず声を張り上げた。

でも、兄妹にその悲鳴のような願いは届かず、張り詰めた空気と暖房のうなる低音で再び部屋は満たされた。

「・・・モグラは引っ込んでなさい」

ココは冷たく言い放った。

ジャッキーはこの一言でとても寂しくなった。

何かしたくても、磔にされたようで何も出来なかった。

「・・・」

ジャッキーはポカンとして経緯を見守るしか出来ない。



「・・・もういいよ、オイラが悪かった」

しばらくして、クラッシュは自分の方から折れた。

でも、完全に折れた訳では無い。

むしろ今の空気に嫌気が差していた。

そのまま口喧嘩していたらクランチと同じようになるかもしれない。

喧嘩ばかりやっていたくはない、当然だけど・・・

こういうときは、男が謝れば「とりあえず」は丸くおさまるものだ。

ココは自分の態度を認めず、ムスッとした態度を突き通した。

「別にいいわよ、全然気にしてないから――」

つまり態度を見直す気は無い。

「――お兄ちゃんこそ、もっと可愛い妹に優しくして欲しいな」

つまりクラッシュのほうが悪いと思っている。

(チッ・・・なんでこんな性格になったんだよ、ココは)

クラッシュは心の中で舌打ちをした。

表では苦笑いを浮かべているけど、本当はココを殴り倒してやりたいぐらいだった。

(だって、そもそも悪いのはどっちだよ、オイラはただ指摘しただけ・・・)

内心イライラしつつ、クラッシュはココに飛行機の燃料を要求した。

「オッケー。すぐ取ってくるから待ってて」

と、ココはすぐに部屋を出ていった。

ココが必要以上にうるさい音でドアを閉めた途端に、クラッシュはヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

「ちょっと、どうしたの?」

ジャッキーが寄ってきた。

「うん、ちょっとね・・・力が抜けちゃった」

クラッシュは弱々しくハハハとジャッキーに笑いかけた。

ジャッキーはそんなクラッシュをどこか興味深そうに見つめていた。

・・・。

「ココはな――」

クラッシュが突然ジャッキーに喋りかけた。

「――昔はあんなじゃなかったんだ・・・」

「そうなんだ・・・どんな感じ?」

「そうだな・・・あんなにすぐキレるような妹じゃなかったよ」

「ふーん」

「そりゃ、どうしても我慢できないときに・・・っていうか、オイラが遊んでいるときに――」

「つまり『のらりくらりしているとき』ってこと?」

「う・・・うるさいぞっ、このハリモグラが――」

「ヘヘッ・・・いや、キシシ・・・かな」

「どうにでも言ってろって・・・とにかくだ、その『なんたらかんたら』しているときは良く爆弾でちゅどーんとやられたなあ」

「爆弾?!」

「そう、あいつ、いつの間にか仕込んでいやがる――」

(普通の兄妹じゃないな、こりゃ)

「それで、あるときからカンフーにハマり出したんだ」

「カンフー・・・」

「どした?」

「いや、なんか思い出しそうな感じで・・・」

「ふーん・・・・・・!」

クラッシュは一瞬の間の後ハッとした。

クラッシュの尺度からすれば、気付く早さは光速レベルだ。

(そういえば、ジャッキーはココとカンフー対決したことがあるんだっけ・・・昔を思い出させてしまったらマズイよな・・・)

クラッシュは話をここでやめてしまった。

さすがにこれ以上話したら、記憶が戻ってくるかも分からない。

クラッシュは早くココが戻ってきてくれないかと真に願った。

ココはまだ戻ってくる気配が無い。

「ねえ、話してってば」

ジャッキーが呼び掛けているのに気が付かなかった。

「え? あ・・・何?」

「続けてよ、ココの話。聞きたいな」

「うん・・・いや――」

クラッシュは微妙な返事を返した。

「・・・・・・」



結局、ココが戻ってくるまで何も話さずに過ぎていった。

ジャッキーにしてみたら、自分のプレゼントがお預けになったような気持ち悪さを感じた訳だ。

でも、クラッシュも今は迂闊に色々喋ってしまう訳にはいかなかった。

ココは余分に多くの燃料を用意してくれた。

「またこんなことになったら困るでしょう」

「確かにね・・・ありがと」

「私も、もう少ししたらそっちに戻るつもりだから」

「オッケー」

「あと・・・クランチにも宜しくね」

ココは最後にちょこっと付け加えた。

クラッシュはドアに向かっていた自分の足を一瞬止め、振り返らずに「うん、大丈夫だから」と返し、ジャッキーと共に社長室を後にした。



ところで、クランチのほうはと言えば、全然『大丈夫』なんて状況では無かった。

スウィーティに捕まり、彼女は生みの親のハゲオヤジでは無く姪のニーナを選んだ。

ニーナはクランチをニトラス・ブリオに渡し、クランチは彼の研究所に拘束された。

そして、今にも何かされようとしている。

クランチの必死の抵抗も――筋肉隆々のクランチだから、凄まじいものではあったが――虚しく終わった。

「さぁ、始めましょうか。ヒェッ、ヒエッ、ヒェッ・・・」

どこか怯えたような笑いは、それこそブリオを象徴するものだった。

でも、自分のやっていることには一切の自信を持っている。

ブリオは、まず懐から注射器を取り出し、素早くクランチに中身を投与した。

何だか、意識が朦朧としてきた、麻酔か、これは・・・

さらにブリオは、怪しい色の薬品を幾つかの三角フラスコに入れて持ってきていた。

どことなく暗黒を感じさせるのは気のせいだろうか、、、

クランチが考えたのはこれが最後だった。