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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


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早く解放して欲しかった。

今は、それさえ叶えば何でも受け渡したい気分だ。

四肢は堅く固定されて動かせない。

反抗するにも武器は口、ただ一つ。

相手がまともに耳を貸してくれることは殆ど無かった。



Chapter 13 会いたい、けど会えない

――。

今、俺はどこか冷たい金属の部屋に閉じ込められている。

海岸に出て、あのタスマニアン・デビルの野郎に会って、それからは良く覚えていない。

多分襲われたのだろう、気付いたらこの状態になっていたのだ。

どれだけ姑息なんだ、俺を襲った奴は。

まあ、正々堂々と向かってきたところで奴は俺に勝てなかっただろう・・・けど。

それより、このパターンは俺が物心ついたときと同じだ。

つまり――ここは研究所。

誰の研究所かは知ったこちゃあ無いが、俺は実験台にされるようだ。

(――チッ・・・)

クランチは、心の中で舌打ちをした。

音を立てようが立てまいが、そこにはクランチ以外誰もいない。

音を立てたところで、どうにかなるわけでは無かった。

(クラッシュ・・・)

・・・。

・・・。

クランチが最後に見たクラッシュは、自分に対してかなり怒っていた。

(・・・もう一度会ってから、こうなりたかった・・・)

クランチはそう思いながら、また解放して欲しいと願い続けた。



「よしっ。まずはタウナから調べるぞ、ジャッキー」

クラッシュはジャッキーと一緒にビルを出て、一番に言った。

ココには釘を刺されたけど、そんなの気にするもんか。

ジャッキーは苦笑いしながらクラッシュに賛同した。

(クラッシュったら――ん?)

やれやれ、と思っていると。

(そう言えば・・・これまでも誰かに調子を合わせていた気がするな)

うっすらと、洗脳が効いているときの記憶が出てきたようだ。

他にも、今までと似た体験をしていたら、色々と思い出してしまうのだろうか。

「――よしっ、これで良かったっけ」

クラッシュは自信無さげにココの人探し機をいじった。

でも、タウナに会えると思っているからだろうか、とても楽しそうに見えた。

そんなクラッシュをボーッと見ていたジャッキーは、「ほんとにクラッシュが僕の敵だったのかな・・・」と、モヤモヤした気持ちになっていた。

実際、今はすごく親身――と言っても、さっきは頭からジャッキーのことが吹っ飛んでいたようだけど――に接してくれている。

勿論、罠であると言う可能性も無くはないけど、敵だと信じるほうが大変だった。

それに、一緒にいると何だか楽しい。

覚えているのは、北極の空の上で冗談を言い合ったことだ。

そう言えば、あのときは語尾になにか付けていたような――

・・・。

・・・。

「――まあ、いっか」

ジャッキーは、深く考えることはやめにしたようだ。

(今そんなことを考えても、どうにかなるわけじゃ無いからね)

「よしっ、出来たっ!」

ジャッキーは顔を上げた。

クラッシュが、丁度操作を終えて、地図に光点を映し出している。

ちらっと見ると、どうやらとても近くにいるようだった。

「ジャッキー――行くぞ」

クラッシュは、街の繁華街の方面に歩き出した。

ジャッキーも、その後にノコノコと付いて行った。

「あ、クラッシュ」

「何?」

「犬のウンコが」

「えぇ? やべっ」

クラッシュは思わずサッと避けたが、車道側に避けてしまい、事態はさらに悪化・・・

「わ〜っ! 今度はトレーラー!」

前から、トレーラーが猛スピードでこちらに向かってきた。

いくら運動神経の秀でたクラッシュでさえ、走っても避けられない距離・・・

「・・・」

ジャッキーはただ見ているしか無かった。

トレーラーの運転手は、やっとクラッシュの姿を見つけ、急ブレーキをかけた。

が、もう間に合いそうに無い。

無情にも、トレーラーはどんどんクラッシュに近付き・・・

「わっ・・・!」

クラッシュは、思わず地面に伏っつぶれた。

丁度、その上を何トンもの鉄の塊が通りすぎたときだった。

「クラッシュ――」

ジャッキーは呆然としたが、絶望していると言うより、むしろ吹き出したいのを我慢しているように見える。

クラッシュは無事だった。

ヨレヨレと立ち上がり、でも生きた心地が無いような顔をしている。

「あぁぁ・・・助かった」

「ク、クラッシュ――」 「え?どうしたんだ、ジャッキー」

「いや、あの・・・背中が――」

「背中?」

クラッシュは、どこからともなく鏡を取り出した。

クラッシュときたら、色々なものを体に身に付けているからビックリだ。

リンゴを耳の辺りから取り出したり、ヨーヨーもパッと出てくる。

鏡も、同じようにどこかに隠していたのだろう。

クラッシュは鏡に自分の背中を写し出して、自分は振り向いた。

「――!!!」

・・・。

ジャッキーは大笑いしたいのをなんとか堪えながら、クラッシュを人目につかないところに引っ張っていった。

クラッシュは、鏡を見てから真っ白、つまり放心状態になっていた。

そのまま置いて行くのは、クラッシュがとても可哀想だった。



コルテックスは、エヌ・ジンのことが心配で仕方がなかった。

「いや、別に心配になっていた訳じゃないからな。気になっているだけだ。誤解しないでくれ」

これは失礼。

コルテックスは、エヌ・ジンのことが心配もとい、気になっていた。

コルテックスにしてみれば、あの手紙は自殺を仄めかしているようにしか見えなかった。

「ああ、そうとしか読み取れん。まあ、アイツが簡単に自分で死ねるとは思わんがな・・・」

コルテックスは、少し考えた末、操縦舵のほうに行った。

手紙を見つける結構前に、エヌ・トロピーからの電話があった(Chapter 6参照)。

まだ思い立っていなければ、そのまま彼のところにいるだろう。

「エヌ・トロピーの下にいるとなると――嫌だなぁ」

二人は馬が合わず、何回も衝突を繰り返していたのだ。

何日か前の電話の応対ぶりを聞けばすぐに分かることだ。

コルテックスは、エヌ・ジンの安否を確かめたいものの、また一方では、エヌ・トロピーの研究所に出向くことを嫌っていた。

結局、コルテックスはその場に残ることにした。

どうせ面倒は見てくれるわけだし、今の最優先事項は打倒バンディクー。

決心してから、どれだけ経ったんだっけ?

互いに顔を見合わせて無いから、全く戦っている気がしない。

(見つかってはいけないが、さすがにこれは暇すぎるぞ・・・?)

コルテックスは正直なところ、マンネリ化したサイクルにうんざりしていた。

そろそろ、自分から飛び込んでみようか。

・・・。

・・・。

「――やっぱり、もう我慢ならん!」

コルテックスは一丁の光線銃を片手に準備しつつ、潜水艦を再び岸へと近づけていった。

この島に目指す敵がいないことも、ジャッキーがいないことも知らずに・・・

無駄骨を折ってこそ、勝利へ近付くことが出来るなら。

コルテックスは、その勝利へ向かって歩いているつもりでいた。



「・・・ん?――どうしたんだ、タウナ」

「ウン・・・なんか、私を呼ぶような声が――」

「フッ・・・そんなの空耳さ」

「そうかしら、なんだか、クラッシュの声だった気がするの・・・」

「あのチビ助か? アイツはきっと――」

「きっと、何なの?」

「いや、何でもない」

「あら、シャイよねぇ」

「・・・」

「でも、そんなところが好き・・・ピンストライプさん・・・」

「タウナ、お前ってヤツはまったく・・・」

ピンストライプは、コルテックスがクラッシュを倒す計画を実行しているのを知っていたから、クラッシュは今ごろやられているだろうと思っていた。

(でも、そんなことをタウナには言えない・・・よな、やっぱり)

ピンストライプは、ふと窓の外を見た。

ずっと遠くで、オレンジと赤のちっこい何かが動いて見えた・・・気がする。

時間を見つけて、俺も後で行ってみるかな――



「うっ・・・うっ・・・」

丁度目の前のいちゃいちゃぶりを見ていたクラッシュは、微妙に体が震えていた。

ジャッキーは、「よしよし・・・」とクラッシュをなだめていた。

シカゴの寒く、そして冷たい空気が二人の周りをなめる。

辺りは、灰色の高いビルが沢山建っていた。

ビル風の影響か、この辺りの風はとても強かった。

「ピ――ピンストライプめが・・・」

クラッシュからは、憎しみの塊が滲み出ている。

「ダメだ、そんな格好であそこに行くなんて」

ジャッキーは、タウナとピンストライプのマンションに飛び込もうとしているクラッシュを押さえるのに必死だった。

クラッシュ本人も、背中の惨事については良く分かっていたけど、憎しみの気持ちのほうが大きいようだった。

さっきクラッシュがトレーラーに轢かれそうになったとき、思わず身を屈めていた。

クラッシュは元々小柄な体格だったから、体は無事だった。

でも、背中は少し――と言うより、かなりダメージを受けたようだった。

「・・・詳しく書かなくてもいいから、説明は早く済ませてくれ」

はいはい。

トレーラーの吸気系統のパイプは、クラッシュが思っていた以上に低かった。

特に、マフラーはパイプが膨らんでいるから、それを避けることなんて出来なかった。

マフラーのパイプとクラッシュの体が思いっきり擦れた。

トレーラーが過ぎた後にジャッキーがその背中を見たとき、既に赤剥けていて、とても痛そうだった。

救急箱なんかは持ち合わせているわけないし、ジャッキーが持っているのは毒針ぐらい。

まあ、前のジャッキーであれば、クラッシュをやっつける『またとない』チャンスだったのかもしれないが・・・

とりあえず、ゴミ置き場から使えそうな毛布を見つけたので、ジャッキーはクラッシュに被せようとした。

でも、クラッシュは「バイ菌が入るから」とか何とか言って、毛布を被りたがらなかった。

お陰で、フサフサの毛があった背中は、寒さに悲鳴をあげることになった。

「クラッシュ、本当に大丈夫なの?」

ジャッキーはクラッシュの様子を見ながら聞いた。

クラッシュは寒さにガタガタ震えていた。

もしかしたら、自分の背中を笑われたらどうしよう、という不安に陥っていたのかも。

「・・・何とか大丈夫だけど」

クラッシュは歯をガチガチさせながら答えた。

元々寒いのに、背中がこの有り様だから、もう大変だった。

それでも、ジャッキーが用意してくれた毛布を被ろうとはしなかった。

毛布は、今はジャッキーが被っていた。

背中の針を逆立てたら、一瞬で破れるだろう。

実際、今のままでもビリッと裂けてしまいそう。

「このほうが温かいのに」

ジャッキーが言った。

「でも、そんな『こじき』みたいな格好なんて出来ない・・・」

クラッシュは小さな声で言い返した。

「・・・」

そうか、とジャッキーは思った。

クラッシュは、ただ恥ずかしいから毛布を被りたくないだけのようだ。

「バイ菌が入るから」というのは嘘の口実だった。

(確かに、毛布を被りながら歩くなんて、周りからは変に思われるかも知れないけど――でも、背中が丸裸なのはもっと恥ずかしいよね・・・)

ジャッキーは考えて、もう一度言った。

「やっぱり、被ったほうがいいよ・・・っていうか、その格好のほうが恥ずかしいだろ、普通」

「・・・そうかも」

クラッシュはジャッキーから毛布をもらい、背中の傷を隠した。

「はぁ・・・あったかい――」

・・・。

しばらくして。

「もう、タウナのことはいいの?」

ジャッキーが聞いた。

「え?」

クラッシュは聞き返した。

でも、絶対聞こえている、とジャッキーは思っていた。

嘘をつく必要なんて無いのに。

「クラッシュ・・・?」

「もういいよ。戻ろう」

クラッシュは、半ば諦めムードだった。

二人はビルの合間を抜け、海岸へと歩き始めた。

「そろそろ、何か食べたいね・・・」

「ああ、でも、お金忘れちゃったんだ。早く戻って、リンゴでも食べよう」