入口 >> トップページ >> 小説 >> クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆 >> Chapter 12
クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


-サイトマップ -戻る
Chapter 12 洗脳が解けた・・・?

「クラッシュ」

「どうしたの、ジャック」

(念のため一度断っておくと、ジャッキーはジャックの名でごまかし通している)

「どうやってタウナを探すの?」

「あれ、今までじょーじょーうるさかったのに・・・」

「えっ、そういえば――どうしちゃったんだろう」

ジャッキーは、自分の癖がひとつ消えていることに、自分でも訳が分からなかった。

というより、頭がスッキリしない気分だった。

なんだか、今までの自分が違う自分だったような気がした。

そして、今までの自分と今の自分が別物だとも感じた。

大笑いしてからだ。

何だかいつも・・・というか、今までと違うのは。

今まで頭の中に埋め込まれていたものが、ものの弾みでスッポリと抜けてしまった感じだ。

「はぁ・・・」

ジャッキーは何が何だか分からなくなって、何とか考えを整理しようとしたが、口からでてきたのは溜め息ひとつだけだった。

「大丈夫――?なんか気分悪そうだよ?」

クラッシュはジャッキーに優しく呼びかけた。

「うん、いや・・・その――あんまり良くない」

ジャッキーは言葉につまずきながら答える。

(あれっ、今まではもっと自然に受け答えが出来た気がするのに・・・)

「――だからさ、きっと疲れているんだよ、うん――」

クラッシュの言葉もまともに聞いていなかった。

「ジャック・・・?」

ジャッキーは横目にクラッシュを見た。

なんだか、気落ちしたような表情だ。

「え?ボクはジャッキーだよ?」

「・・・そうか」

クラッシュは少し冷たい目でジャッキーを見た。

「やっぱり、コルテックスの味方だったんだな。前からうすうす気付いていたけどな」

「コルテックスって誰だよ、ボク、そんな人は知らないぞ」

ジャッキーは、何が何だか分からない、といった感じだ。

「悪の科学者だ。お前はずっとあのハゲ頭を慕っていたんだ」

「ええ〜っ!」

・・・。

・・・。

「嘘だ・・・信じた・・・く――」

「でも、ホントに――」

「――絶対、信じたくない!」

クラッシュは呆気にとられた。

ジャック、もといジャッキーに何があったんだろう。

(もしかして、洗脳が解けたのかな、クランチみたいに――)

(そういえば、クランチも洗脳が解けたときは混乱していたっけ・・・)

クラッシュは考えをまとめた。

そして、ジャッキーの、体の大きさの割に大きい手を引いた。

「とりあえず、行動しよう。反省はしているんだよな?」

「うん・・・というか、そのコルテックスって人のことが全く浮かんでこないんだ」

「そう、じゃあ、とりあえずココの会社に行こう。探すのを手伝ってもらうんだ。確か、ここからすぐのところ――あ、あった」

少し歩くと、先にパステルピンクとパステルブルーの建物が見えてきた。

ココらしい、可愛らしいデザインだ。

でも、どこか攻撃的に見えるのは何でだろう。

クラッシュとジャッキーは正面玄関からエントランスに入った。

とりあえず、受付に向かう。

そこには、クラッシュ好みの受付嬢がいた。

クラッシュはジャッキーを引いていた手を振り上げて、真っ直ぐそこに飛んでいった。

「やぁ、オイラ、クラッシュ・バンディクー! よかったら、これから一緒に――くはっっ!!!」

ジャッキーが横からパンチを食らわせ、クラッシュは伸びた。

「・・・・・・」

受付嬢はかなり困った様子で苦笑いをする。

「(もう、何やってんだよ・・・)あ、あの――こっちの彼、クラッシュ・バンディクーって奴で、社長に会いたいってことでここに来たのですが――」

ジャッキーは慌てて取り繕った。

受付嬢も、納得したように頷いた。

「ああ、ココ社長のお兄様ですね。色々話は聞いていますよ」

『社長』なんて肩書きがついていると、なんだか別人みたいだ。

クラッシュは、地面にうつ伏せになったまま、「そりゃ、オイラのことはいくら時間があっても語り尽くせないよなぁー」と言った。

ジャッキーは、受付嬢が大笑いしそうなのを堪えているのを確かに見た。

「ププ・・・え・・・ええ、そう――ですね・・・」

「・・・」

「では、今社長に内線を繋ぐので、今しばらくお待ちを――プッ――」

「・・・」

「・・・オイラ、なんか悪いこと言った?」



爽やかな色合いの部屋の中。

そのリゾート地のような場所でプルル・・・と電話が鳴った。

内線だ。

ココは受話器を取って、受付嬢の用件を聞いた。

「はぁ――なるほどね。忙しいって言ったんだけどな・・・まあいいわ、通しても」

「お連れになっている者もお通しして・・・?」

「ええ、いいわ」

「では――」

「うん、お疲れさま」

ココは内線を切った。

窓辺から海岸を見ると、ずっと向こうに、いつか見た飛行機とグライダーが停めてあるのが見えた。

(そう言えば、連れって誰だろう。クランチだと思っていたけど、あれには乗れないだろうし・・・)

ココは不思議がっていると、ドアのすぐ向こうに答えがやって来た。

トン、トン。

丁寧にノックを叩く音がする。

(・・・お兄ちゃん、だよね――)

一瞬だけ躊躇した後、ココは「どうぞ」と呼びかけた。

ドアをバタンと開けてクラッシュが嬉しそうに入ってきた。

ココは、やれやれと思いつつも、顔を見せてくれる兄が少し嬉しく感じた。

次の『付き添いの者』が入ってくるまでは。

ジャッキーの姿が見えた途端に、ココの表情が豹変――というより、汚いものを見るような顔になった。

それからは一瞬だった。

ココは素早くデスクから銃らしきものを二人に向け、どちらも口を利く前に銃口から何かを二発発砲した。

捕獲ネットだ。

特殊な繊維を使用しているのか、ジャッキーが背中の針を逆立てても全く効果は無かった。

捕獲ネットはクラッシュとジャッキー、それぞれにかけられていた。

そして、ココがゆっくりと近付いてくる・・・。

「ココ――」

クラッシュは哀願するような声で呼んだ。

でも、ココは聞こえなかったフリをしたようだ。

ココはジャッキーの方ではなく、クラッシュの方に近付いた。

そして――

「ココより――」

右足を踏ん張って――

「――何を――」

「愛を――」

左足を後ろに振り上げ――

「――するん・・・!」

「込めてぇっ!」

痛烈なカラテキックがクラッシュを直撃!

クラッシュは驚きと痛みの声を同時に上げた。

「うぅっ、何で――?」

「化けの皮を剥がしなさい、コルテックス!」

ココは全く怯む様子もなく、クラッシュを傷めつけた。

「なんで――」

ベシッ。

「あのジャッキーと――」

バキッ。

「一緒なのよ――」

ゴキッ。

「敵の罠に違いない――!!」

「違う、待って・・・待てって!」

ココは一旦攻撃を止めた。

警戒の縄はまだほどけていない。

「ジャッキーは改心したんだ。洗脳が解けたみたい」

ココは何も言わずに、今度は棒のような物を持ってきた。

「じゃあ、あなたは本当のお兄ちゃんね?」

「勿論さ!」

棒に丸い緑色のランプが光り、ポーン、と音が鳴った。

今度はジャッキーの元に向かう。

「あなたはコルテックスの元にいたいの?」

「そんなの、真っ平だ」

また、緑色の丸が光ってポーン、と音が鳴った。

ココはゆっくりと立ち上がり、二人をもう一度見た。

クラッシュは、ココが苦悶の表情を浮かべるのを久々に見たような気がした。

そしてココは、銃とウソ発見器を置いて、二人を解放した。

「・・・ごめん。ジャッキーと一緒だったから、もしかして――と思って」

ココは小さくなりながらクラッシュにボソボソと言った。

「まぁ、疑いがなくなったのは分かったけど・・・」

クラッシュは自分の体を見た。

「これじゃ外を歩けないよ」

「大丈夫、救急箱と毛並みを整えるスムーサーならあるから――」

「――それより、教えて欲しいんだけど、なんでジャッキーの洗脳が解けちゃったの?」

ココはジャッキーを見ながら聞いた。

「オイラには分からない。ここに着いたときからおかしいんだ」

「ボクもさっぱり。でも、何だか記憶がスッポリ抜けた感じ」

ジャッキーがこう答えると、ココは考えながら言った。

「・・・クランチは洗脳されていたときの記憶もあったわよね。辛そうだったけど、克明に話してくれた。でも、ジャッキーは何も覚えていないって・・・」

「多分、ショックの与え方が違っていたから、こうなったんじゃないかな」

クラッシュは珍しく的の射た考えを言った。

「なるほど、そういうことは十分有り得るわ。ところで、詳しく聞かせてちょうだい。今まで何があったか」

ココは納得した様子で、二人から(ジャッキーは殆ど記憶が無かったから、大部分はクラッシュから聞いた)経緯を聞いた。

クラッシュはまだ意地を張っていて、クランチのことは一度も口にしなかった。

ココは気になっていたからだろうか、クランチのことを聞いてみた。

「――ところで、クランチは家に残してきたの?てっきり、クランチと一緒なのかと思ってた」

クラッシュはその質問を無視した。

「・・・?――あっ・・・ケンカでもしたの?」

「だって、アイツったらピンクのチビクマちゃんのことしか頭にないんだ。向こうは家を出ていったよ」

「ええっ!?どうしよう・・・」

ココはかなりショックな顔になった。

「いいよ、向こうから謝るのを待つ。オイラは何も悪くない」

クラッシュが頑なな顔でこう言うと、ココは首を軽く横に振った。

「ううん、クランチのことじゃなくて、ケンカのこと――」

「それがどうしたんだよ・・・」

「――ケンカの原因を作ったの、きっと私だわ・・・」

ココは奥の部屋に行き、間もなく戻ってきた。

片手に、小さなピンク色のものを握っている。

「あっ――」

クラッシュはすぐに気が付いた。

紛れもなく、それはクランチのチビクマちゃんだった。

(そうか、だから探しても見つからなかったのか)

「あのときに急いで準備していたから、これが紛れ込んでいることに気が付かなかったの――ゴタゴタの原因になるなんてね・・・」

ココの声は尻切れトンボに消えた。

「っていうか、なんでココが持っていたの?クランチと同じ部屋にいるわけじゃないだろ」

「あー・・・それは――何でもない」

「ふーん――」

クラッシュは、ココが必死に顔の赤みを隠そうとしていることに気が付いた。

「あっ、信じていないでしょ」

「信じてるよ」

「だったら、なんでそんな顔で私のことを見るの?」

「『そんな顔』ってどんな顔だよ」

「だって、絶対に『シラ〜ッ』って感じの顔で見てきた!」

「あのー」

ジャッキーが唐突に割り込んできた。

クラッシュとココは、顔を赤く染めながら、今にも兄妹ゲンカをはじめてしまいそうな雰囲気だった。

ジャッキーは気まずいと思いながらも、同時にこの言い争いを止めないといけない、と思った。

きっと、クラッシュは怪我だけでは済まないかもしれない。

「・・・そんなことしている場合なの?」

「・・・」

「・・・そうね、続きはまた今度にしましょう――」

「続き?もうやめにしよう――」

クラッシュは疲れたように言った。

「『やめにしよう』って、元々、変な顔で私を見たのはそっちでしょ」

「だって、それはお前が――」

「もう聞きたくないよ!」

ジャッキーが怒りながら二人の間に割り込んだ。

こんなことをしていたら、あっという間に日が暮れるし、時間がもったいない。

「クラッシュ、元々はどうしてここに来たのか思い出してよ! 助けをもらうためだろ・・・」

ジャッキーは訴えた。

「・・・なんだっけ、それ」

クラッシュは忘れているみたい。

「ココに助けをもらうためだってば。クランチを探すって自分で言ったのに――」

「あれ、そうだっけ」

「ほら、もうケンカはおしまい!」

ジャッキーが言うと、クラッシュとココは口をつぐんだ。

ちょっとばかし気まずい雰囲気だった。

でも、またすぐに二人の口が爆発するようなことは無さそうだ。

「よし――とりあえず、ここは身を引こう。じゃあ、助けてよ、ココ」

「今更ねぇ――何をすれば・・・?」

「クランチの居場所が分かればそれでいいから」

クラッシュは最後に「会いたくないし」と、ボソッと付け足した。

「はいはい、そういう意地は要らないから。・・・これで探してみれば?」

ココは、小さなレーダー探知機のようなものをクラッシュに手渡した。

「まずテストしてみようか。私の名前をそれに入れてちょうだい」

「うん――ココ・バンディクー・・・っと――これでいいの?」

「大丈夫、それじゃ、次に赤いボタンを押してみて」

ポチッ。

クラッシュがボタンを押すと、ピッという音が鳴り、画面に世界地図が現れた。

その中で一ヶ所、赤の点滅があるのを見つけた。

「これ、どこを指しているのさ。世界地図なんて、サッパリ分からない――」

「シカゴだってば」

「ふーん・・・で?」

「『で?』って何?」

ココは逆に質問した。

「だって、これじゃシカゴのどこにいるか分からないよ」

クラッシュは微妙に困ったような声で言った。

ココは「世話が焼ける」とも言いそうな顔をしながら話を続ける。

「幾つかボタンがあるでしょ。何のためについているのか考えてみたらどう?」

「う〜ん・・・」

・・・。

・・・。

(そんなに考え込むの?)

ココは前言撤回、「もう考えなくていいからっ」と遮るように言った。

ココは赤いボタンの横についている、黄色の矢印ボタンを指した。

ああ、と納得したクラッシュはそのボタンを押した。

「どんどん押してみて」

何回も押すと、地図は拡大され、シカゴのエリアマップのようになった。

「これならいくらか分かる・・・かな」

「そう、良かった。――あ、そうだ・・・」

ココは、ふと思い出したように切り出した。

クラッシュは感心しているのかどうか分からないが、機械をジロジロを眺めている。

「・・・これを使える回数は限られているの。この機械、プライバシーの問題が絡んできたりするから・・・」

「まぁ、そんな使うわけじゃないから大丈夫」

「あと、もう一つ――」

ココはさらに続ける。

「タウナのストーカーなんかの為に使っちゃダメよ」

「なんでそうなるんだよ、ひどい言いがかりだ・・・」

クラッシュは憤慨した。

まだ何にも言っていないのに、こんなことを言われたら腹が立ってくる。

ジャッキーに「まぁまぁ、落ち着いて・・・」となだめられながら、クラッシュはボソッと言葉をこぼした。

「まずはタウナから追っかけてやる――」

クラッシュをなだめていたジャッキーには、この言葉が聞こえてきて、思わず苦笑いした。

運良く、ココにこの言葉を聞かれることは無かった。



「・・・そう言えば――」

クラッシュの機嫌が何とか直ってきた頃、ココがふと言った。

「何?」

勿論、クラッシュは聞き返す。

とても好奇心が旺盛で、あどけない表情は、まるで子供のよう。

ココは、何か突っかかるような、そんな表情だ。

「なぁ、なんなのさ」

もう一回聞く。

「――あのね、ちょっと気になったの・・・」

チラリとジャッキーを見ながら言った。

ジャッキーは、そのつもりが無いのに、思わずドキリとした。

「そもそも、どうしてジャッキーは私たちの所に来たのかしら・・・?」

「ん・・・そんなこと、気にする必要があるの?」

今度は、クラッシュが逆に質問した。

「だって、今ジャッキーは――え〜っと――洗脳が解けたんだろ?」

「お兄ちゃんのところに来たときから洗脳は解けていたかな・・・」

「アッ――」

クラッシュも気付いた。

ジャッキーは、コルテックスの指令を受けてオイラのところにやって来たんだ。

つまり・・・つまり・・・

「・・・事の大きさに気付いたかな」

ココが言った。

「うーん・・・」

「鈍いわね」

ココは苦笑いした。

「いや、事情は飲み込めたけど――いつもはもっとこう――」

クラッシュは、大げさな身ぶりで、何かが突っ込むような仕草をしてみた。

「――ドッカーンッ! ってやってくるだろ。クランチを創り出したり、自分からこっちに出向いたり」

「考えが変わったんじゃない?」

ココは間を置いてから静かに言った。

「あのデッカイ平頭も成長するものね・・・」

「確かにな――そうだ、ジャッキー?」

クラッシュはジャッキーを呼んだ。

兄妹の話し合いに飽々して座っていたジャッキーは、呼ばれると嬉しそうに二人のところに来た。

「何なの、クラッシュ」

「あのね・・・覚えていないかな――」

「?」

「――ここ何日かのこと。コルテックスのこと、少しでも思い出してくれると嬉しいんだけどな」

「うーん・・・」

「そんなすぐには思い出せないわよ」

ココが水を差すように言った。

「分からないさ。もしかしたら、何かのキッカケでひいと記憶が――」

「戻ってきたら、ジャッキーは敵側に戻るでしょうね」

ココが決定的なことを言ってしまった。

「アッ・・・そうか」

クラッシュはガクッとして落ち込んだ。

「まあいいや。この機械でコルテックスを見つけて、やっつければいいだけだ」

「それは無理」

ココはあっさりと言い流した。

「色々厄介なことになりそうだったから、コルテックスはデータベースに入れていないの。今から入れるにしても、凄く時間がかかるわよ」

「チェッ、面倒なことをしてくれたな・・・まあいいや――」

クラッシュは開き直ったような声で言った。

「――また、冒険が始まる・・・ってことだ」

「うーん、そうね――今回は寧ろ、探求の旅じゃないかしら。コルテックスの・・・」

「探求の旅、か・・・」

クラッシュは噛み締めるようにその言葉を呟いた。

これから、長い旅になりそうだ。

まずは、タウナとクランチを見つけ出そう。

それから――どうすればいいんだろう、全く先が見えない。

でも、探求の旅と言うからには、暗中模索するに違いない。

中途半端な始まりだったけど、終わりはキレイにまとめてやるっ。

――クラッシュは小さな決意を決めた。

打倒コルテックスに向けて・・・

「う〜ん、思い出せない――って、僕はいつまでこうしていればいいの?」

クラッシュとココは、ジャッキーをまた無視してしまったようだ。