入口 >> トップページ >> 小説 >> クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆 >> Chapter 9
クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


-サイトマップ -戻る
Chapter 9 チビクマちゃん騒動

「?」

ジャッキーは不思議がっていた。

「――なんでそんなに隈があるのかじょー?」

クラッシュとクランチは、目の下に隈をつくっていた。

「ああ、これはね・・・ちょっと、色々とあって・・・」

「うん、あんまし気にするなよ・・・ふぁあ〜・・・」

クランチは大きなあくびをして、テーブルに伏っ潰れる。

クラッシュはウトウトしながらイスに座っている。

二人ともヨレヨレになっていて、今にもぶっ倒れそうだ。

「・・・結局、チビクマちゃんなんて見つからなかったじゃないかー、まったく・・・」

クラッシュは目を擦りながら言った。

結局、チビクマちゃんは見つからなかったらしい。

(チビクマちゃん・・・もしかしたら、何か分かるかも知れないじょー・・・)

ジャッキーは何気ない感じを装って聞いてみた。

『フリ』をするのは得意だった。

「クランチ――」

「なんだ?ジャック」

「チビクマちゃんって何だじょ?ペットなのか?」

クランチの顔に少しだけリンゴ色が差した。

「ああ――それはだな・・・えーっと――」

「クランチが寝るときに一緒に連れているピンクのぬいぐるみだよ」

クラッシュは動作もなく言った。

「あっバカ! 内輪だけにしたかったのに!」

クランチはジャッキーには言いたくなかったようだ。

「クランチはぬいぐるみと一緒に寝ている、ってことなのかじょ――ふーん・・・」

「おっ?」

「ほら、変な目で見られちったじゃんか!」

「ごめーん、アハハ・・・」

完全に他人事のようにクラッシュは笑った。

「・・・っあ」

クランチが呟いた。

「お前、チビクマちゃんをいじくってなんかいないよな?」

「何のことだじょ?」

クランチはジャッキーに矛を向ける。

ジャッキーはビックリした。

何もやっていないのに・・・

「クランチ」

クラッシュが言った。

「あんまり他人(ひと)を疑うのは――」

「うるさいな、クラッシュはリンゴでも食べてろ!」

「なんだよ、ただのぬいぐるみが無くなっただけで」

クラッシュがそういった途端、クランチの動きがふつと止まった。

「――そうか。そうか・・・アイツのことなんか、みんなどうでもいいって思ってんだな」

「ああ、そうさ・・・無いといけないわけじゃないだろう」

クランチの態度に、クラッシュも少し冷たく言った(本当は早くこの話を終わらせたいから・・・)。

クランチは怒りが頂点に達しそうだったが、何とか思いとどまる――ことは出来そうになかった・・・。

クラッシュとクランチは火花を散らせ、今にも飛びかかりそうだ。



「ふぅ、やっと着いたわ――う〜ん、久々だなぁ、この都会の空気」

ココは会社の中にいた。

久々に社長室の机の前に座って、荷物を広げた。

ココウィングを出す前に、家中を駆け回ってパッキングをしていたのだ。
急いでいたから、どんどん荷物を詰め込んでいた。

「ぃよっこいしょ・・・っと」

重いフタを開けると、中にはパソコンがまず確認できる。

その下にはOA文具やら化粧品やらがあり、服もしまってある。

「いやー、我ながら良くこんなに詰め込んだものだわ――あれ、これは・・・」

ココは服の下からピンク色のモノを取り出した。

そう、ピンクのクマのぬいぐるみ――。

ココは慌てていたあまり、クランチのものまで持ってきてしまったのだ。

「こりゃ、マズいものを持ってきちゃったからしら・・・クランチ、大丈夫かな・・・」

潜水艦の中では、ちょっとした混乱が起きていた。

コルテックスはずっと携帯電話を耳にあてている。

「おい、ジャッキー・・・ジャッキー!」

応答は無く、コルテックスは電話を切った。

「くそ・・・なにがどうなっているんだ・・・昨日の昼過ぎから連絡が無い。しかも、GPSの反応さえ無いじゃないか・・・」

ジャッキーの携帯電話が草むらに落ちていて、しかも電池が切れているのは知るわけが無かった。

コルテックスはふと、ニーナとスウィーティの言葉を思い出した。

『誰がアンタのとこに戻んのよ。ま、差し当たりアンタの性格だし〜、部下に逃げられた、ってとこかしら〜。
やっぱ〜、その性格を治さないとダメダメって感じ〜』

スウィーティにはこう言われたし、ニーナにもガツンと言われた。

「ワシは本当に見捨てられたのかな・・・まさか、な」

コルテックスはまたもや一人取り残されたような気持ちになった。

「・・・」

しばらくして、コルテックスが無言で立ち上がった。

「こうなったら――もう直々にやっつけたほうがいいのかもな・・・」

そう呟きながら、潜水艦を島に近づける。

しかし、ションボリとしたコルテックスにいつもの威厳は無かった・・・。

一方、エヌ・ジンもそろそろ意地を張れなくなってきていた。

エヌ・トロピーと一緒に居るものの、殆どむっつりとしていて、そして時折携帯を開いては閉じ、開いては閉じ――そんなことを繰り返していた。

「ドクターエヌ・ジン・・・もうそろそろ戻ったほうが・・・」

「拙者に構わなくても大丈夫だ。もう、あのウスラトンカチの野郎のところには戻らん。もう決めたことだ」

「フォーエバー、意地を張っていても何にもなりませんよ。無駄にスペンドタイムするだけです・・・」

「ああ、うるさいな・・・」

「ああ、時間は矢のように過ぎていく――受け止めたくても、指の間からこぼれてしまう・・・」

「何か申したいことでも?」

「――勿体無い・・・きっとメイビー、コルテックス博士はユーのヘルプを求めているはず」

「・・・お主はそうだと思うか?」

「ホワイ?なんでそう思うね」

「なんでって、あんな頑固者なんかの下につきたくはないわ」

「オゥ・・・これは、これは・・・」

エヌ・ジンはコルテックスのところには帰りたくは無いと言っているが、それでも相変わらず携帯を開けては閉め、開けては閉め――そして頭を抱える。

エヌ・トロピーはその様子を「可哀想に・・・」と思いながらじっと見ていた。

(これは――何かしてあげねば――見ていられない・・・)



その頃、クラッシュの家の中では一騒動が起こっていた。

二人の怒号が飛び交っていた。

「オイラは悪くない!」

「いーや、お前が悪い」

「なんだよ、ただのぬいぐるみが無くなったからって――呆れた」

「あの子は俺の友達だ!」

「ふーん。喋らなくて動かない友達ねえ・・・なんか寂しい――」

「っ!・・・お前がそんなことを言うなんて思っても見なかった・・・」

「こっちこそ、さ・・・」

クラッシュとクランチは、互いにそっぽを向いてしまった。

ジャッキーは、一人気まずそうにそこに立っていた。

(どうしよう・・・何かしたほうがいいのかじょ?)

ジャッキーにとってクラッシュ達は敵な訳だし、敵が仲間割れしていれば都合がいい。

でも――

「このまま見ていていいのかな・・・?」

考えがぐらついてきた。

ジャッキーは少し考えていたが、すぐに答えを要求されることになった。

「おい、ジャック」

クランチがジャッキーを呼んだのだ。

とても小さく、囁くように呼び掛けた。

クラッシュは、聞こえたのか聞こえなかったのか皆目分からなかったが、多分聞こえないフリをしているのだろう、そっぽを向いたままだ。

クランチはそんな様子も全然気にならないようだ。

「?!なんだじょー?」

「お前は、どっちの、味方、なんだ?」

「へっ?」

クランチはジャッキーを味方につけたいようだ。

「俺のほうが正しいに決まってる。ジャック、お前もそう思うだろう?」

「クランチのアニキよぉ、ボクちんにはなんのことを言っているのか――」

「おい、クランチ――」

クラッシュまで乱入してきた。

「お前には関係ねぇよ、引っ込んでろ」

「どうせ賄賂かなんか売っていたんだろう、卑怯だよ」

クラッシュときたら言いたい放題だ。

「お前、バカのくせしてなんで賄賂なんて言葉を知ってんだよ」

クランチも気持ちへのセーブが既に効かなくなっている。

「そんなの知らないよ! っていうか、『バカのくせして』って何だよ! そっちのほうが問題じゃないか!」

「大体、お前はチビクマたゃんのことを何にも分かっちゃいねえんだよ!」

「別に分かりたくなんか無いし・・・」

クラッシュは正論を言った。

「ク・・・クラッシュの言う通りだと思う――じょー。多分、きっと、ウン・・・」

ジャッキーが珍しく遠慮がちに言った。

もしかしたら、クランチが怖いのかも・・・

自分に味方がいなくなったクランチはちょっと蒼白な顔になったような気がした。

もしかしたら見間違いだったかも知れないけど、すぐに元の色に戻った。

「ふーん。そうか、そうか――どうやら俺がこの家にいるというのはおかしいみたいだな・・・」

「えっ?」

「俺は場違いなんだろう?どうでもいいチビクマちゃんなんかに必死になってさ――」

「そういう意味で言った訳じゃ無――」

「いいよ。ここを出てく。もう決めた」

クランチはすっくと立ち上がった。

「ちょ、ちょっと待つじょー。ひとまず落ち着いてくれじょー」

ジャッキーは思わず引き留めようとした。

――。

――ん?

(ちょっと考え直せじょー。もし、このままクランチが出ていけば、クラッシュを倒すのは簡単なんじゃないかじょ?
今はあの厄介な妹もいない・・・これはチャンスだじょ! キシシ・・・)

ジャッキーはクランチの凄味に負けた『フリ』をして、サッと引っ込んだ。

普段から誰かの下につくのが習慣になっているから、演技をするのは得意だった。

クラッシュとジャッキーが立ちすくむ真ん前で、クランチは荷物をまとめ――恐らくトレーニング用具が殆どだろう――今、頼れる兄貴分が出ていこうとしている。

「待てよ・・・オイラが悪かったよ。チビクマちゃんは探すからさ、ねぇ――」

「・・・・・・フン」
「・・・・・・」

無言の状態が続く。

さすがのジャッキーでさえも、何かしらの言葉をかけてあげることが出来なかった。

「・・・ココに宜しく頼むぜ、じゃ・・・」

「そんな・・・」

そしてクランチは家の丸扉を開けて、ムンムンする外の熱気の中へと出ていったのだった。



クラッシュは半ば放心状態になった。

ジャッキーはそっと扉を閉め、クラッシュの元に向かった。

「・・・落ち着くんだじょー。きっとそのうち、けろっとして戻ってくると思うじょー」

「『そのうち』なんてあるか――」

クラッシュは寂しかった。

ココはいない。

クランチは出ていった。

アクアクは『仕事』から戻ってこない。

横にいるのはハリモグラ、それだけ・・・。

(何か洗脳される前を思い出しそう・・・)

クラッシュがコルテックス(と、ブリオ)に誘拐される前は、まさに本能のまま生きてきた。

タウナと二人で森の中暮らしてたっけ。


『ほら、タウナ。リンゴ採ってきたよ!』

『アラアラ、クラッシュったら張り切り過ぎよぉ〜。こんなに食べられないわ・・・』

『そうかな〜?・・・んじゃ、オイラが食べちゃおう』

『ち、ちょっと、クラッシュったら。そんなに勢いよく頬張ると喉に詰まらせちゃうわよ〜』

『まっさか〜。オイラはいつもこんな感じで食・・・ゲホッ、ゲホッ・・・』

『ああん、もう、クラッシュったら。おドジさんなんだから・・・ほら、大丈夫?』

タウナはクラッシュのフサフサな背中をさすった。

やがて、クラッシュの喉の詰まりも取れたようだ。

『ふぅ・・・。もう大丈夫だよ、タウナ』

『ホント、クラッシュっておっちょこちょいなんだから〜。』

『アハハ。ゴメ〜ン』

『フフッ。何か、可笑しくなってきちゃったわ。クラッシュのせいよン』

『タウナってば、いつもそうなんだから〜――』


「――ハァ・・・」

クラッシュは小さく溜め息をついた。

ジャッキーはその様子にちょっとだけニヤニヤした。

「ん?何をニヤついてんのさ、ジャック」

「え?あ、別に何でもないじょー」

「ジャックってさ、案外無神経なんだね」

「うゎ、また随分ストレートにくる言葉だじょー。でも、ボクちんにはこれが精一杯だじょー」

「そう・・・あのさ――」

クラッシュがジャッキーに聞いた。

「何だじょ?」

「オイラ、これからシカゴに行こうと思うんだ」

「へぇー。何で?」

「そりゃ勿論・・・って、分からないか。あのね、オイラの妹が今向こうにいるんだ。会いに行こうと思ってね」

「妹・・・」

ジャッキーの顔が少し険しくなったような気がした。

「どうかしたの?」

「別に・・・」

「まあいいや。でも、本命は・・・ああ、待ってろよ、タウナ・・・」

クラッシュはもう一度だけ溜め息をついて、ピョンと立ち上がった。

「そうだ、ジャックはさー。う〜ん、どうしよう・・・留守番お願いできるかな」

「っ・・・(それじゃ、クラッシュを見張れないじょー)」

ジャッキーはクラッシュを見張るようコルテックスに言われていたので、これは大変だ。

(何とかして一緒に連れてってもらうか、でなくちゃシカゴに行くのをやめさせないと、だじょ・・・)

どっちが自分達にとって得なのだろう。

どっちにしろ、クラッシュの近くにいないと・・・。

これは重大な選択だ――。

「じゃ、宜しく頼むよ?」

クラッシュが聞いてきた。 (うわ〜。これ、どうすればいいんだじょ・・・?)

・・・。

ジャッキーが考える間、クラッシュは喋らずに待っていた。

「?」

(よし、決心がついたじょ!)

「クラッシュ・・・あの・・・一緒に連れてってくれるかじょー?」

クラッシュの意思は固そうに見える。

ちょっとのことではやめてくれそうにない。

だったら、一緒に付いていくしかない。

しかし――

「え〜っ、一緒に来るの?!」

「ヘッ」

かなり拒絶したような反応を見せられた。

「だめなのかじょー?」

ジャッキーはクラッシュに聞いた。

「別に嫌な訳じゃあないんだけれどさ、ちょっとね・・エヘヘ・・・」

「はっはーん。タウナだじょね?」

「ッカー、バレちゃったか! まあ、そういう訳だからあんまり一緒に来て欲しくは・・・ん?」

「どうしたじょー?」

「なんでタウナのこと知ってるの?」

「なんでって・・・さっき自分で言ってたじょー」

一寸前に話したことを忘れるのは良くあること。

回想にふけっているうちにブツブツと口から漏れたようだ。

「――とにかく、一緒には来ないんで欲しいんだ」

「でも、タウナの側にはピンストライプがいるじょー」

「ジャックって何でも知ってるなあ。オイラ達とあの頭でっかちとの関係・・・」

ジャッキーはこの言葉にカチンときてしまった。

「コルテックスさまにそんな口の利き方は許せないじょー!」

当然、クラッシュはビックリする。

「え?何言ってんの?」

(しまったじょー。つい根が出ちゃったじょー・・・これは危ないじぇ・・・)

ジャッキーはすぐに取り繕った。

「だ、だから・・・それを言うなら『ハゲでバカで頭でっかち』だじょー」

こんなことを言うのは辛かっただろう。

でも、一緒にいるためには仕方がない・・・。

(コルテックスさま、ごめんなさいだじょー・・・)

一方、クラッシュのほうは納得してくれたようだ。

「あ、それ言えてる。中々鋭いこと言うじゃん」

「口だけなら絶対に負けないじょー。エヘン! だじょー」

「よし、じゃあ、ジャックも一緒に来る?」

どうやら、クラッシュの考えを変えることに成功したようだ。

「えっ?いいのかじょ?」

「ウン、一緒にいると結構楽しいし。ジャックもオイラ達のファミリーの一員だよ。同じバンディクーじゃなくても――」

「あ・・・ありがとう・・・だじょー・・・」

(どうしよう、両方に良い顔見せてたら、いつかバレて、どっちからも見放されるかもしれないじょー・・・)

ジャッキーは、そんな恐怖な将来を心配してしまう。

「じゃ、行こうか、ジャック」

「あ・・・うん・・・」