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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


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Chapter 8 ジャッキーとクランチの焦り

もう昼過ぎだ・・・

外は暑さ真っ盛りで、海の向こうには蜃気楼が出現している。

ジャングルでは、動物たちが日陰を求めて動き回っていた。

ビーチで遊ぶという楽しみがオジャンになって暇なクラッシュは、ブツブツ言いながらゴロッとしていた。

「チェッ、アクアクったら被害妄想が激しいんだよ・・・ちょっとガサガサって音がしただけなのに・・・」

そのガサガサの発生源は今目の前にいる。

部屋の中は、外の暑さのせいでビニールハウスのようだ。

「あ〜あ、今日はずっと暇になっちゃうのかな・・・なんかもったいない」

アクアクにはむやみに外に出ないように言われていた。

もし見つかったら大変だと言うのだ。

ただ、クラッシュの考えは違った。

「むしろ、敵が何をしてしるか分かったほうが安全な気がするんだけどな・・・なあ、クランチ、どう思う?」

「ちょっと待て。俺は今手が離せないんだ。アイツの食い物を作らなくちゃいけねぇんだぞ」

クランチは台所からこう返してきた。

「あっ、そう、、、」

クラッシュはムスッとしてまたゴロゴロしはじめた。



それから5分ほどして、クランチが遅めのお昼を持ってきた。

もう3時は過ぎているだろう、とにかく今日は遅かった。

クラッシュはプレートを見るなり興奮したが――

「わぁ、やっと来たよ・・・って、アレ?リンゴは?」

皿に盛られていたのは、野菜、やさい、ヤサイ・・・それと、少量のリンゴ。

「これで我慢しろ。俺は野菜が食べたいんだ」

「ふ〜ん・・・まあいいや。それより、まだ寝てるよ、アレ――」

ジャッキーはよほど疲れていたのだろう、まだ寝ていた。

起こすのは可哀想だったが――自分たちの敵に対して慈悲の気持ちを持つのも変な感じなのだが(ただ、クラッシュとクランチはそれがジャッキーだと気付いていない)――元々ジャッキーのために作った昼食なのだから、仕方が無かった。

「おーい、起きて――」

クラッシュは優しく呼びかけた、でも熟睡している相手にこう呼びかけても無理がある。

ジャッキーはこれくらいでは全然起きない。

「クラッシュ、それじゃあ起きるハズがねぇだろ・・・せめてこんぐらいはしろよ――」

すううぅぅ――

クランチは息を思いっ切り吸って・・・

「――会議の時間だぞッッッ!!!!!」

耳が壊れそうなほど大きな声で叫んだ。

「ねえ――」

クラッシュがクランチに聞いた。

「なんだ?」

「どうしてさぁ、『会議の時間』なの?」

「いや、何となく・・・な・・・コイツにはそれが似合っている気がした、それだけだ」

「ふ〜ん。そう。むしろ『遅刻だぞ、起きろ!』ってほうが似合いそうだけど・・・目なんか腫れぼったい感じだし」

なんでサラリーマンが言われていそうな言葉ばかり出てくるのかは気にしないことだ。

とにかく、クランチが大声を出したのは大きな効果があったようだ。

ジャッキーはパチッと目を開けて、周りを見た。

そして当然ながら――えらく驚いた。

「あゎゎゎゎ、クランチにクラッシュ・バンディクー! だじょー!」

と。

「!」

「?」

クランチはこの態度に驚き、クラッシュにはどうもピンと来なかったようだ。

「まず聞きたいんだけどよ――」

しばらくして、クランチが話を切り出した。

「――お前は誰なんだ?」

「へっ?――いや、別に動転した訳じゃ――」

「なんで慌ててんの?」

クラッシュは片方の眉をつり上げて、ちょっとだけ訝しそうに聞いた。

「慌ててなんかいないじょー・・・」

ジャッキーは慌てて笑顔を取り繕った。

しかし、目が笑っていない。

「『じょー』?そういえば、こんなヤツがコルテックスの野郎に慕ってしたような気がするな――なぁ、クラッシュ・・・いたよな、こんなヤツ」

「・・・?いたっけ?」

「ああ、もういいや。・・・で、まだ答えは聞いていないぞ。お前は誰だ?」

クランチが詰問する。

「ボクちんは――え〜っと――」

・・・。

・・・。

「――ジャックだじょ!」

「ジャック?」

クラッシュとクランチは同時に言った。

そして、クランチは「いや、ちょっと待てよ――」と考え直し、クラッシュは「そうなんだ。ジャックって言うんだー」と早くも友好的に迎え入れた。

(ほっ・・・この場は何とか乗り切ったじょー。でも、ここにいても何も出来ないじょー・・・)

ジャッキーは持ち前の口のうまさで何とかここまでこれたものの、これでは何も出来ない上逃げられそうにもない。

ジャッキーが攻撃を仕掛けても、体力的にも人数的にも無勢だった。

クランチは意味深に考え込んでいる。

クラッシュはそんな様子に気付いて、一旦ジャッキーの手を握っている手を離した。

「?・・・何かピリピリした空気だよ?」

「いや、あのさ――」

クランチはクラッシュにしか聞こえないぐらい小さな声で喋った。

「アイツ、コルテックスの手下じゃねえか?」

クラッシュは一瞬の間キョトンとしてから――

「え〜っ!!!」

と大声で叫んだ。

クランチは驚いて、身体中の毛がビクッと逆立った。

ジャッキーは何事かと思って遠目からじっと見ている。

「アイツが、コル――」

クラッシュが何か言おうとしたが、クランチに手で口を押さえられたので、モガモガした。

(バカ! ここで喋るんじゃない! 危ないだろ!)

(それより、クランチの手、汗臭いよ・・・)

それでもまだ手を押さえたまま、クランチは話を続ける。

「アイツ、本当はジャッキーって名前だったと思う。いつか戦わなかったっけな、ウン」

「覚えてないや。でも、そうだとしたら危なくない?」

「なら、どうにかしないとマズいな・・・」

「追い出しちゃえば?」

「そうだな・・・」

「何をヒソヒソ話しているじょー?」

ジャッキーが割り込んできた。

「あ――」

微妙に緊張が走る。

互いに敵同士だから、尚更気まずかった。

家の中はシーンとして、空気までその中に入り込む。

「な――何でもないよ」

今の空気が無かったかのようにクラッシュが言った。

「ふ〜ん・・・」

あまりにもバレバレ過ぎて、ジャッキーには飽きられているようだ。

こんな調子で、今日のこの時間が過ぎてゆく。

もし、ココが戻ってきたら。

そして、もしココとジャッキーが顔合わせしたら・・・。

家の中は、天地をひっくり返したような騒ぎになってしまう。



その日の夜――

結局ココは戻ってこなかった。

だから、男三人で料理して、毛繕いして、そして何もすることが無いのでもう寝ることになった。

「ジャックはどこかテキトーなとこで寝ていていいよ。場所なら沢山あるから」

クラッシュはジャッキーにそう言って、自分の部屋へと消えていった。

後にはクランチとジャッキーが残った。

「あっ――それじゃ、俺ももう寝るぞ。まあ、居心地悪いかもしれないが、ゆっくりしてくれよ――じゃあな」

「あ・・・うん――それじゃ、ボクちんもそろそろ寝るじょー」

クランチも自分の部屋に戻っていったが、ブツブツ独り言を言っていた。

「あぁ、やっとチビクマちゃんに会える〜♪一緒にいないと不安でいてもたってもいられないぜ、ふぅ・・・」

ジャッキーはこれを聞き逃さなかった。

(チビクマちゃん?なんだじょ、それは――)

その時、部屋が真っ暗になり、窓から差し込むピカールの光が眩しいくらいになった。

クランチが居間の灯りを消したのだ。

ジャッキーは暗い中、クランチのチビクマちゃんについて考え始めた。

把握できることなら、何でもいい、知っておきたい――。

ジャッキーは考えて――

「コルテックスさまに報告するじょー。何か分かるかもしれないじょー」

ということになった。

やっぱり産みの親だし、何か知っているかもしれないと考えたのだ。

ジャッキーはトゲトゲの中から携帯電話を出そうとした。

しかし――。

「あれ?無くなってるじょ?!」

ジャッキーの携帯電話はクラッシュの家の近くに落ちたままになっていた。

ひょんとしたことで落ちたものだから、誰も知る由がなかった。

ジャッキーは慌てたが、騒がないように自己規制するのが大変だった。

「こ・・・これはピンチだじょ・・・どうすればいいんだじょー・・・?」

半分途方に暮れながら、ジャッキーはマットレスの上に横になった。



「おい、起きろ、クラッシュ。――起きろってば・・・」

太陽が昇るにはまだ早い時間だ。

外はまだ薄暗く、夜行性の動物たちは寝床に戻っていくが、昼間に活動する動物たちは寝ていて、とにかく微妙な時間帯だった。

クランチは、そんな時間にクラッシュを起こしに来た。

クラッシュはいつものように「くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・」を繰り返している。

クランチはクラッシュを必死に揺すって起こそうとした。

「なぁ、頼むから起きてくれよ!」

「ん・・・?どしたの・・・オイラ、もうリンゴは要らないよ・・・」

「っかー、寝ぼけてやがる!」

クランチは、寝ているクラッシュの頬を思い切りひっぱたいた。

『パシン!』と景気の良い音が部屋に響き、すぐに静かになった。

イビキも、もう聞こえてこない。

代わりに、ヒーヒー言う声が――。

「っかー、痛ぇ・・・」

クラッシュは半分涙目になりながらクランチを見上げた。

「やめてくれよ・・・バカ力でひっぱたくのは・・・」

クラッシュがブーブー言っているのを無視して、クランチは話した。

「聞いてくれよ、クラッシュ・・・」

急に涙を流し始める。

「おっ・・・?」

「俺のチビクマちゃんが、チビクマちゃんが・・・」

「チビクマちゃんが?」

「いなくなったんだよ!」

クランチはさらに涙を流し、もう滝のようになっている。

クラッシュは、ピンとこない・・・というより眠くてたまらないという感じだ。

「ふぁあ〜・・・眠いのにそんなことで呼び出さないでよ〜」

クランチは、それを聞いた途端に泣くのをやめた。

カチンときてしまったらしい。

「チビクマちゃんがいなくなったのに、『そんなこと』だって?!」

「オイラには関係ないよ〜・・・」

「いいから探せ! 早く見つけないと、チビクマちゃんがどうなるか・・・あぁ、大変だよ・・・」

クランチはクラッシュを揺すり、チビクマちゃんであるかのように抱きながら、また泣き始めた。

まるで父と息子のような、異様な構図になる。

「分かった、分かった――苦しいってば・・・」

クランチは耳を貸さなかった。

そのままクラッシュを抱えて、クランチは「よし、探すぞ!」と言い、自分の部屋へと向かった。

「グランヂ、ぐ、ぐるじぃ゛よぉ〜」と言うクラッシュを連れて・・・