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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆
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Chapter 7 一夜明けて・・・
ヘンテコドッキリ島に朝日が降り注ぐ。
森に住む夜行性の生き物は寝床に戻り、今まで寝ていたほうは新しい一日が始まる。
夕べ遅くまで起きていたクラッシュはベットに入る前に睡魔に負けてしまい、今は床で眠っていた。
クランチも遅くまで起きていたが、いつもの習慣か、もう起きてトレーニングを始めていた。
ドッキリを食らったココも、もうすぐ目を覚ましそう。
表のすぐそばでボーッとしていたジャッキーは、目がトロンとしているように見える(普段から半目だから分かりにくいが、目がつり上がっていない)。
それでもまだ意識は飛んでいなかったので、フラフラしらがらも窓の側に寄った。
「ン・・・何か聞こえるじょー、ファァ〜・・・あー、眠い・・・」
中からは、荒い息遣い。
そして、重いモノを降ろすドンという音もする。
ジャッキーが覗いていたのはクランチのいる部屋だった。
そして間も無くココの声が響いてきた。
窓とドアの向こうから聞こえる声は、とてもくぐもって聞こえた。
意識がぼんやりとしているせいなのかもしれない。
「クランチ?もう起きてるの?」
クランチは、手を休めずに返事をする。
「おう、もう起きてるぜ! もう朝飯なのか?」
「え・・・いや、まだだけど。私、まだ起きたばっかり」
「そうかそうか。俺は今、基礎トレーニング中なんだ。残りはスクワットとバーベル上げと、あと・・・」
「はいはい、朝ごはんが出来たらすぐに来てちょうだいね」
そして、足音がドアの向こうから聞こえ、間も無く聞こえなくなった。
窓は高い位置にあったので、ジャッキーはタルの上に乗ってこの様子を見ていた。
そろそろ疲れてきたので、一旦降りて足を休めた。
(なるほど・・・アイツらも丁度起きたところということだじょー)
しばらくして、ジャッキーはもう一度窓を覗いた。
クランチはトレーニングの休憩中らしく、椅子に座って滴るほどにかいてしまった汗を拭いていた。
「ふぅ〜、あと少し頑張らないとな・・・ん?」
クランチがふと窓の外を見たとき、ジャッキーと目が合ってしまった。
(しまった・・・!)
ジャッキーはすぐにタルから飛び降り、窓の下、丁度上から見たら死角になるところに張り付いた。
ここなら、上からは見られない・・・
カチャ――窓の鍵を開ける音がして、ジャッキーは少しだけムンとした若い汗を上のほうに感じた。
「あれ?確かに誰かいたような気がしたんだけどな・・・考え過ぎか?」
ジャッキーは物音一つ立てず、思わず息まで止めていた。
クランチは結局見間違いだと思ったのか、窓から出していた顔を引っ込め、部屋を出ていった。
「ふぅ、危なかったじぇ・・・ところで、アイツら、今日は何をするのかじょ?」
ジャッキーは他の部屋を見て回ろうと、クラッシュの家を一巡した。
裏まで行ったところで、煙突からいい香りがしてくることに気付いた。
ジャッキーはその匂いに鼻をクンクンさせ、ワクワクとした期待に背中のトゲトゲも立つ。
「これは・・・リンゴの匂いだじょー! ・・・そういえば、潜水艦を出てからまだ何も食べていないじょ・・・」
昨日の夕方、ジャッキーはリンゴの木を海岸近くで見つけたのだが、そこには既に先客がいた。
サルたちは、ジャッキーがリンゴを盗ろうとしたのに気付き、攻撃してきたのだ。
結局何も収穫が無かったジャッキーは、そのまま夜を過ごし、今は寝不足と空腹でカリカリしていた。
だから、食べ物の匂いに敏感ななるのも無理はなかった。
「あ〜あ、食べたいけどノコノコ入れるハズが無いじょー・・・何か、覗く気も無くなってきちゃったじょー・・・」
覗く気力さえ無くなったジャッキーは、陽の当たらない木の陰に行き、じっとした。
一晩空を見ていたから、もう眠さも限界だ・・・
ジャッキーの意識は、下へ・・・下へ・・・下へ・・・落ちていった。
真上から光を当てられているような気がした。
そして、とても暑い・・・
「う〜ん・・・ここはどこ?だじょー・・・」
・・・。
・・・。
・・・。
・・・?
・・・!!!
「っあ! 寝てしまったじぇ! 大変だじょー!」
上を見ると、太陽は真上にあった。
ジャッキーは半目をさらに細めてそれを知った。
クラッシュの家を見ると、ドアが開けっ放しになっていた。
しかし、誰かがいるような気配が全くしない。
それを見たジャッキーの目は、逆に見開いた。
「見張りをしていたのに見逃しちゃったじょー・・・海岸にいるかな・・・?」
海岸へは少し行けばあっという間に着く。
ジャッキーは海岸の端っこに出て、クラッシュ達を探した。
「あっ・・・」
すぐに見つかった。
クラッシュ達は海にいて、水をかけあって遊んでいるようだ。
アクアクはその傍にあるビーチチェアの上にちょこんと乗っていた。
元々ハリモグラのジャッキーにとって、大量の水の近くというのはあまり好意的では無い。
海水となると尚更だ。
「う〜、良く見たいけど、これじゃ近づけないじょー。それと、クラッシュにクランチ・・・何をやっているじょ?」
遠目なので良く分からないが、二人は何かデレデレしている・・・
どう見ても、水を掛け合っているようには見えない。
「もしかして、二人ともココに惚れてるのかじょー?そんなの、冗談にも言えないじょー。ボクちんのほうが空手とか得意だもんね!」
変な対抗心・・・。
ジャッキーはその場で憂さ晴らしをするかのように技を連発させた。
某ネコ型ロボットのマジックハンドがあったら、きっとココはみるみるボコボコになっていったに違いない。
「ふぅ・・・気が済んだじょー。そうだ、今がチャンスだじょー」
ジャッキーはまた携帯電話を取り出し、コルテックスの番号に発信した。
「もしもし、どうしたんだ、ジャッキー?今ランチタイムだったんだが――」
受話器の向こうからはモグモグと食べている音が聞こえてくる。
「今ヤツらは油断しているじょー! やるなら今がチャンスだじょ!」
「なぬ?気が付かんかった、すぐ向かう!」
ブチッ!
コルテックスは即座に電話を切った。
ジャッキーは準備のため、さらにクラッシュ達に近付く。
やっぱり、敵の最期を見るのは、ボスの近くがいい。
そんな理由から、ジャッキーはビーチチェアのすぐ後ろにある木の陰の茂みの中に隠れることになっていた。
そこなら、見つかることはないだろう。
ただ、これには弱点があった・・・。
茂みは体に触れるとガサガサと音を立てた。
それが運悪くアクアクの耳に入ってしまったのだ。
(この後クラッシュ達がどうしたのかは、Chapter2の通りである。
コルテックスが攻撃を行使する前に海岸を後にしてしまったのだ。
ここからはChapter2の後の話となる)
「ねえ、こんな時に悪いんだけどさ――」
家に入る直前、ココが切り出して言った。
「ん?どうしたのさ」
クラッシュが聞き返す。
「今メールが来ちゃってさー・・・ほら、これ――」
クラッシュ、クランチ、アクアクがココのノートパソコンの画面を覗き込んだ。
届いたメールには、ココに本社に戻って来て欲しいという内容があった。
「じゃあ、まだあのビジネスは続いているんじゃな?オキサイドが攻めてきた頃に始めたアレを?」
「オンラインだけじゃなくて、ついに本社まで建てちゃったんだっけ」
「えぇ、そうよ。もう順調で困っちゃうって感じ! まあそれは置いといて・・・急いでいかないと間に合わなそうだから、もう行かなくちゃ!」
そう言いながら倉庫の方へと向かう。
そしてココは倉庫からココウィングを出して――すぐに飛んでいった。
「あら〜、行っちゃったよ」
「暫くは戻って来ないな、こりゃ」
クラッシュとクランチは、どんどん離れていくピンク色をずっと見ていた。
やがて、プロペラの音も姿も見えなくなった。
「さて・・・ワシもそろそろ戻らねば」
「帰るの?」
「うむ、一応ワシは島の精霊じゃからな。見回りに行かねばならん」
「そういえばそうだったね・・・」
「じゃあ、また後でな」
そう言うと、アクアクはその場でぐるっと回って消えた。
後には煙が残っていた。
「いいなぁ、アクアクは」
クラッシュは羨ましそうに言った。
「何がいいんだ?」
クランチが聞いた。
「だってさ、アクアクってどこにでも飛んで行けるし、暗いところも平気だし・・・」
「ふーん。でもよ、クラッシュ、お前はグライダーやらジャイロやら持っているじゃねーか。俺は何にも持っていないぞ」
「自由に飛びたいんだよね。道具無しで」
さらにクラッシュは続ける。
「ココは頭が良くて何でも出来る――」
「あ、あぁ・・・まあな、ココは素晴らしいよな、エヘヘ・・・」
「それにさ、コルテックスもいいよな。瞬間移動が出来て」
「おいおい、敵を羨ましがるのかよ・・・俺はあんなヤツなんて二度と見たくねぇけどよ・・・自分の特技を伸ばせよ」
「じゃあ、オイラに何がある?」
クランチは少し考えてから言った。
「――リンゴの早食い」
「ほら、それしか無い! 実用的じゃ無いじゃないか。くそっ、こうなったら――」
「こうなったら?」
「意地でも特殊能力を身に付けてやる!」
「今のままでも十分だと思うけどな・・・で、特殊能力とやらを身に付けてどうするんだ?」
「そりゃ、タウナをピンストライプから取り返すに決まってるよ!」
「タウ・・・ああ、あの抱き締められたらたまらなさそうな姉チャンか。居間にも写真があったよーな・・・」
「そうさ。今でも諦めきれないんだ」
「そうか。まあ、アー・・・頑張れや」
「もちろんさ♪」
クラッシュはウキウキしながら言った。
「手始めに――よしっ・・・」
「?」
「研ぎ澄ますんだ・・・動物の本能を・・・」
「へっ?」
そしてクラッシュは突然草むらに駆け出して、土を掘り返しはじめた。
「ゥオリャリャリャリャ――!」
クランチはそんな様子を白けながら見つめていた。
「何やってんだ、アイツは・・・ありゃ、完全にお熱だな・・・」
丁度その頃・・・
遥か遠くまで青と緑の揺れる波で覆われ、上は揚々と広がる青と白のパッチワーク。
そんな絵に描いたような風景の中を、小さな船が一隻進んでいた。
船は後ろに二筋の線を残していくが、やがてそれは波に消えていく。
ニーナは一人、海の上にいた。
船を出し、猛スピードで目的地へと向かう。
宿題のレポートを抱えて、やがて見えてきた『あの島』へと向かった。
彼女は、誰にも目的地を言っていない。
さらに同じ頃、スウィーティはデートを終えて、暇つぶしに海岸で一人日光浴を楽しんでいた。
そこはとても小さな穴場で、クラッシュ達も来たことが無い。
「フフッ・・・こういうところもたまにはいいわね・・・あ〜あ、早く理想の彼氏が欲しい〜――そして、こんな素敵な場所で一緒に・・・」
気持ちの落ち着く静かな波の音がする中、スウィーティは一人妄想に浸っていた。
このときばかりは小悪魔のオーラも感じられなかった。
カニは潮を吹きながらザワザワと群れ合い、海の水に体をくすぐられながら当ても無くそこにいて、そんな様子をスウィーティはボーッと見ていた。
人工科学の匂いがその場から消えかかった頃――といってもそんなに時間はかかっていない――スウィーティの携帯電話が鳴り出した。
スウィーティはハッとして。
すぐさま画面を確認して。
そして。
小悪魔の醜悪な顔が、ガッカリの表情と共に戻って来た。
電話をかけてきたのは『あの』ハゲオヤジだった。
「出てやるもんか! かったるいしぃ〜・・・」
スウィーティは電話を取らず、そのまま電源ボタンを押した。
そして携帯電話を砂浜に投げ出した。
携帯電話はカニの横にサクッと音を立てて落ちた。
「あ〜あ、マジでKYなことやってくれるわ〜。気分ぶち壊しって感じ・・・」
しかし、一分ほど経ってまた携帯電話が鳴り出した。
案の定、相手はコルテックスだった。
スウィーティは一瞬だけ躊躇した後、嫌々通話ボタンを押した。
「もしも――」
「ちょっと。何のつもりよ」
「えっ?」
「っていうかぁ、マジウザいんだけど〜。折角バカンスを楽しんでいたのに、雰囲気ぶち壊しよ?」
「あの・・・」
「雰囲気はお金じゃ買えないのよ?プライスレスなのよ?どうしてくれんのよ、私の傷付いた気持ち」
「あのな、スウィーティ・・・雰囲気は一緒にいないと分からんだろうが・・・まあいい。すまなかった」
「・・・」
「で、こんなときに悪いんだが・・・私のところに戻って来てくれるか?人出が足りないんだ」
しかし、ムスッとしたスウィーティにはそんな言葉など耳に入ってこない。
「誰がアンタのとこに戻んのよ。ま、差し当たりアンタの性格だし〜、部下に逃げられた、ってとこかしら〜」
見事、図星に当たってしまったコルテックスは絶句した。
エヌ・ジンと言い争ったときのことが蘇ってくる。
「もしかして当たった系?やっぱ〜、その性格を治さないとダメダメって感じ〜。とにかく、私は戻らないから。じゃあね」
コルテックスに反論をする時間なんて微塵も無かった。
グイグイとスウィーティに押され、そして切られてしまった。
スウィーティはまた携帯電話を投げ出した。
今度はカニにヒットして、脳天をまともに食らったカニは泡を吹きながらひっくり返った。
でも、そのカニを気にする余裕が――心のほうの余裕が――無かった。
「あー、ムシャクシャする! また誰かと遊びたくなってきたわ」
スウィーティのイライラは、今や底無しだった。
スウィーティーは立ち上がり、その場を去った。
携帯電話を片手に、次の不運な運命になるであろう相手を探しに・・・
「ねぇー、クランチぃー」
クラッシュが犬のように地面を掘り返し始めてから十数分経って、クラッシュがクランチを呼んだ。
クランチはクラッシュを見るのにも飽きていて、一人スクワットをしているところだった。
「173・・・174・・・ん?どうした、クラッシュ」
「ちょっと来てよ〜。何かいるんだけど、絶対見たことがあるはず・・・」
クランチはクラッシュのいる草むらに向かった。
クラッシュは赤い物体の脇で待っていた。
それは今は寝ているようだった。
「ほら、このトゲトゲ・・・どっかで見たよね」
「う〜ん、そう言われてみればそうかもしれないな」
「誰だっけ?ジ・・・ジ・・・」
「それよりよぅ、コイツ、何だかやつれて見えないか?」
ジャッキーは昨日から何も食べていなかったので、おまけに殆ど寝ていなかったので、そう見られても無理は無かった。
「一旦家に運ぼう。オイラの採ってきたリンゴをあげるんだ・・・」
「よし、そうと決まれば・・・よっと・・・」
クランチはジャッキーを軽々と持ち上げ、肩にかけた。
その時、ジャッキーのトゲトゲの中にしまわれていた携帯電話が落ちた。
クラッシュもクランチも、それに気が付くことはなかった。
そして、クランチの肩の上だからかなり揺れたはずだが、ジャッキーが起きることはなかった。
それほど疲れていたのだろう。
そのまま三人は家の中へと入っていった。