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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


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Chapter 3 コルテックスとエヌ・ジン

ところで、アクアクの「見張られている」という感覚は間違えてはいなかった。

クランチの「コルテックスに関係がある」という考えも間違えていなかった。



それは数日前のこと――



ここはとある研究所。

辺りには雲だろうか、霧だろうか、研究所から出る煙だろうか、とにかく辺りには『もや』がかかっていた。

時間は朝なのに、今は雷雲がかかっていてどんよりした雰囲気を醸し出している。

とても『いびつ』な外見で、研究所というよりはむしろ城ではないかと思ってしまう。

その中のある一室で、「彼」は悩んでいた。

「はぁ・・・ワシはどうすればいいのだ・・・もう何度も――そうだ、数え切れない程にアイツにやられてきた・・・」

彼の名はネオ・コルテックス。

クラッシュの『第二の人生』をつくり出し、それ以来永遠の宿敵だ。

彼の夢は世界征服。

「そう!ワシが皆を見下し、そして皆がワシを崇めるのだ!ウワッハッハッハ・・・ハァ・・・でも、その夢を毎回あのバンディクーがぶち壊す・・・」

そう、今までクラッシュ達はコルテックスの計画を打ち砕いてきた。

コルテックスが世界征服をしようとするたびに、クラッシュ達に野望を阻止されていた。

なので、コルテックスはいつの間にか目的が変わっていた。

世界征服から打倒バンディクーに・・・。

それが世界征服の大前提だと思い込んでいた。

今までもスーパー・バンディクーを創り出したり(クランチのことだ。言うまでも無く、今は洗脳が解けてクラッシュ側に付いている)、

ココに変装してやっつけようとしたり(逆にやられてしまった)、ドライブ中のクラッシュ達を奇襲したり(最初は良かったものの、最終的には負けてしまった)・・・



コルテックスが一人嘆いていると、部屋のドアが開き、一人の男が入って来た。

「失礼しかまつりまする、コルテックス殿――ん?どうされました?」

彼の頭には、何とミサイルが刺さっている。

コルテックスは振り向き、彼と向き合った。

コルテックスの顔は少ししわくちゃになっていて、目は少し赤くなっていた。

泣いていたらしいが、敢えて隠すようなことはしなかった。

「おぉ、エヌ・ジンか・・・。丁度良かった・・・」

「?」

「ワシはな、今悩んでいるんだよ」

「――と、言いますと?」

「ワシは早く世界征服をしたいのに、その度にヤツらにやられておる。何を――やっても――失敗ばかり!・・・もう望みさえ無くなってきた気がするし・・・はぁ」

「なるほど――確かに左様ですが――拙者のマシンもどれだけやられたことか――いつも向こうが上手を行っている――」

「そうだ!いつも同じことの繰り返しだ!何か画期的なアイディアを見出さなくてはならない!私のバカ、バカ、バカ!なんで何も思いつかない・・・」

コルテックスは自分を責め始め、エヌ・ジンはそんなコルテックスに何も出来ず困惑していた。

それからしばらくの間、部屋には沈黙の空気が漂った。

唯一、外の味気の無い無表情な風の音だけが沈黙を破っていた。



しばらくして、コルテックスは思い出したように言った。

「そういえば・・・何をしにここに来たのだ?用があって来たんだろう」

エヌ・ジンもすっかり忘れていたようだった。

「ああ、すっかり忘れてました、失敬――あー、確か・・・そうだ、思い出した――ウカウカ殿が呼んでおります」

今でもひどい顔をしていたコルテックスが、もっと青い顔になった。

「ウカウカ様が?!ああ、どうしよう、こんなときに。今度はどんな言い訳を言えばいいのやら・・・冗談だと言ってくれ・・・」

コルテックスは、文字通りアセアセとした。

「はい、冗談でございます」

「ァヮァヮ――っえ?」

「ウカウカ殿が呼んでいるというのは冗談で、ちょっとからかってみただけでして・・・拙者の道化をお許し申す・・・」

「なんだ、そうか・・・いや、ワシは別にビビっていた訳じゃないぞ!フリだ、フリ!」

「はぁ・・・(見え見えではないか・・・)」

コルテックスは気を取り直してもう一度聞いた。

「それじゃ・・・本当の用件を言ってくれないか。何だか疲れてきた」



「はい、コルテックス殿、以前『エヴォルヴォレイ』を使って新しく洗脳動物を作りましたよね、ほら、トロピー殿に張り合うために・・・」

「ああ、そういえばそんなこともあったな。うむ・・・」

コルテックスは、当時を懐かしむように言った。

「確かに『エヴォルヴォレイ』を使った。え〜っと――確かハリモグラとタスマニアン・デビルにやったな・・・うん。そういえば、最近は放っておいてそのままだったな」

「それを利用すればクラッシュ・バンディクーに勝てるかも知れませぬぞ」

エヌ・ジンは、「バンディクー討ち取ったり!」の格好をし、剣を鞘にしまうマネをした。

丁度外で稲光が光り、エヌ・ジンの後ろの窓から漏れる光が後光のように見える。

暫くして、重々しいゴロゴロという音が響いた。

次にコルテックスの口から出た言葉は、威圧感の無い重々しい苦難の声だった。

「あー、つまり、アイツらに攻撃をさせるというのか?それだったらタイニーやディンゴのほうが――」

「いや、違う、攻撃させるのではない!――っあ・・・すまない、つい熱が入って・・・」

「構わん。で、アイツらが攻撃しないのにやっつけるとはどういうことだ?良く分からんが」

「密偵、つまり、偵察をするのです・・・素行を調査し、油断しているところを我々がドカンと――そう、拙者の新型ミサイルを試すのにいい機会かと存じ上げるが・・・」

「油断しているところをドカンと、か」

「何か?」

「いや、何かしっくり来ない。もっと正々堂々いきたいものだが・・・」

「その結果がこれですぞ。な〜んにも成果無し。不景気の中、いや、どんな状態であろうと、奴等には正攻法では勝てまい。もう他に方法は無い」

コルテックスは、何故か反対意見を言いたそうな感じがした。

やりきれないような、やるせないような、不思議な表情を浮かべていた。

そして、今までより殊更深い溜め息をついてから重々しく言った。

「エヌ・ジン、お前には分からないだろう」

「――っへ?」

エヌ・ジンは困惑した。

何が、自分には分からないのだろう。

エヌ・ジンは、コルテックスの顔に懐古の表情が浮かぶのを見たような気がした。

「いいか、ワシと、あの裏切り者のブリオにしか分からんだろう。『今の』クラッシュの生みの親はワシらのようなもんだぞ。何たる『運命』よ――」

「つまり・・・うむ、武士道ですな・・・こっそり、卑怯は許せない、そういうことですな」

「そういうことだ。しかし――やはり他に方法は無いか・・・よし、じゃあ、こういうプランはどうだ――」



タスマニアの海岸。

時間は丁度遊び盛りの時間。これからがお楽しみの時間だ。

クラッシュ達は、浜辺でのんびりと遊んでいる。

ダンスを踊ったり、お昼寝、サーフィン、ネットサーフィン・・・

そんな様子を、手下の一人がじっと見張っている。

クラッシュ達は見張られていることに気付いていない。

見張っている手下は、常に情報をコルテックスに無線で伝える。

今出かけた、今昼食の時間だ、今寝たところだ――

そして、『今、油断している』――




「――これを合図に、ワシ達がエヌ・ジンの新型ミサイルでドカンとやるんだな。ヤツら、どんだけ怯えることか!だが、飛行船じゃ目立つよな・・・そうだ、潜水艦!」

「えっ?潜水艦なんてありましたっけ」

「今から造るんだよ。『天才宇宙機械技師』の肩書きを持っているから、潜水艦なんてチョチョイのパーだよな、そうだろ、エヌ・ジン?」

声が猫なで声になっている。

「はあ・・・じゃあ今から造りますよ。完成したときにまた会おう・・・」

エヌ・ジンは、静かに部屋のドアに向かった。

その背中に、コルテックスの声が飛んで来た。

「あっ、どれだけ長く潜水艦に居座るか分からないからな。食料は沢山積めるようにしといてくれるか?それに、スウィートルームやシャワーも付けてくれるか?あと――」

「完成するのが遅くなりますよ」

それだけ言い残してエヌ・ジンはドアをピシャリと閉めた。

コルテックスの部屋には、本人がそのままの格好で固まっていた。



コルテックスとエヌ・ジンが話し合いをしてから数時間後。

太陽は城の研究所の真上に昇っている。

研修所の周りを渦巻いていた不気味な『もや』は殆ど消えていた。



コルテックスは、自分のパソコンをいじりながらこれからの計画を立てていた。

既に彼は上機嫌で、鼻歌まで歌っていた。

その時、コルテックスの白衣のポケットから『コルテックスの世界征服マーチ』の着メロが聞こえてきた。

この曲、マーチとはいえども一応歌詞も付いていて、たまにコルテックスも口ずさんでいた。

どうやら電話がかかってきたらしい。

コルテックスは待ってましたとばかりにパッと携帯を取り、通話ボタンを押す。

「もしもし、コルテックスだが」

「もしもし、ジンです・・・」

「おお!待ってたぞ!どうだ、潜水艦のほうは」

コルテックスは期待のこもった熱っぽい声で聞いた。

エヌ・ジンは相変わらずの落ち着いた声で返事を返す。

「はい、上々で」

「そうか。ところで、スウィートルームは・・・」

電話を通しているのに、向こう側から殺気を感じたコルテックスは、思わず口を閉じた。

「これからどうします?早速、偵察を送り込みます?」

「いや、まだだ。やらなくてはいけないことがある」

「おっ・・・?研究ですな、何か最終調整することが?」

「いや、違う。昼食だ、ランチだ!」

エヌ・ジンは当然ながら拍子抜けし、言葉が出ない。

何てったって、こんな大事なときにそんな普通すぎることを・・・。

エヌ・ジンは気が緩みすぎだと言ったが、こう返されてしまった。

「エヌ・ジン、いくらワシが色々出来ても、頭でっかちのウスラトンカチでも、ワシは人間だ。ほら、『腹が減っては戦が出来ぬ』と言うじゃないか」

この武士道的な言葉と一緒に自嘲的な意味合いも含まれていたからか、狙い通りエヌ・ジンの考えを改めさせる効果があったようだ。

「それは、まっこと、誠・・・ウン。そうですな、拙者が間違えていたようだな」

「よし、じゃあ、景気付けの意味も込めて、今日はちょっと豪華にいこう。ディンゴに焼肉でも作らせるか・・・ミーティングルームで会おう」

「はっ、確かに・・・では、さらば、ですな?」

そして電話は切れた。

コルテックスの口元に、不思議と笑みがこぼれた。