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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆


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Chapter 2 海岸にて

――という訳で、朝食の席には四人が揃い、リンゴのパイは、三人分に切り分けられた。

クランチは野菜ばっかり食べるが、逆にクラッシュはリンゴパイや他のリンゴ料理に、もちろん素のリンゴも沢山食べ、野菜には目もくれない。

ココは、食事が偏っていると注意しても効果がないのが分かっていたので、今は何も言わない。

クラッシュは食べるのに一段落つけてからココに尋ねた。

「ココ、今日はオイラ達、なにするんだっけ?」

「ぅん?えーっとねぇ・・・今日はまた日光浴とか、いろいろ」

「そうか、いいねぇ」

「それに、サーフィンもやるぜ、クラッシュよぅ」

「うん、それもいいねぇ」

「わしがモテモテトレーニングの特訓をしてやってもいいぞよ」

「ぅ・・・それは遠慮する・・・」

アクアクの意見は頂けなかったようだが(アクアクが冗談で言ったのは言うまでもない)、クラッシュは喜んでいるようだった。

何もかもが平和。

今日は、誰にも邪魔されたくない、いや、邪魔させない。

空は雲一つ無く、青いグラデーションを作りだしている。

しがらみなんてなかった。

クラッシュの家の中もそんな空と同じだった。



でも、天気なんてずっと同じわけじゃない。

快晴もあるけど、曇りだって、雨だって、風の強い日もある。

十次元に行ったとき、向こうの世界の空は赤く、黒い渦が幾つも巻いていて、そして雲がどこまでも、どこまでも続いていた。

そんな十次元に行ったとき、どんな目に遇ったか・・・

クラッシュは今でも覚えている。

自分そっくりのエビルクラッシュがコルテックスを捕食しようとしていた。

あのときばかりは、クラッシュもコルテックスが可哀想に思えた。

そして、かつてコルテックスのペットだった双子のオウム――兄は冷静なビクター、弟は陽気でやんちゃなモーリッツだ――が襲ってきて・・・

あの天気の下でいいことは無かった気がする。

悪夢という言葉はこのためにあるのかと思ってしまう位だ。



あれとはうってかわって、今はいい天気。

まさにレジャー日和だ。


さて、朝食も食べ、クラッシュ達は準備万端。

久々にアクアクも一緒になって、家の目の前にある海岸に来た。


「うむ、今日の海は穏やかじゃな。絶好ののんびり日和じゃ」

アクアクは嬉しそうに言った。

「そう、ここはオイラにとって『第二の人生』の始まりの場所だから・・・ここはオイラの――あー、何ていうか・・・」

「『ふるさと』でしょ、お兄ちゃん」

・・・。



別名「目覚めのビーチ」。

クラッシュがコルテックスの元から命からがら逃げてきた場所だ。

大の水嫌いでカナヅチのクラッシュを地上まで連れてきた場所だ。

クラッシュはそれ以来この場所を『目覚めのビーチ』を名付け、この近くに住み、日々この海岸と戯れた。

「だって、波は優しくて、そりゃ、たまには荒々しいこともあるけど。えーと、あと・・・とにかく・・・なんだ・・・あの・・・すごいんだ」

クランチがクラッシュとココの家に居候し始めたとき、クラッシュはまずこのことを話した。

クラッシュが不器用なせいでそのときは「おい、何が言いたいのか分からないぜ」と言われてしまった。


しかし、どうしてもこの気持ちを伝えたかった。

そこで、クラッシュはクランチを半ば無理矢理に海岸まで引っ張って来た。

それだけで説明がついたかどうかは分からないが、とにかく「おもしろそうな海岸だな」とは言ってくれた。

クラッシュはそれだけで満足したようだった。

それからというもの、二人は一緒に日光浴をしたり、サーフィンもやったり。

ビーチは、クランチを快く受け入れてくれた。



「いゃっほ〜い!」とビーチに声が響いた。

まずは浅瀬で水遊びだ。

アクアクは木の仮面だし長寿であるが故に、水のかけあいには参加しなかった。

一方、クラッシュ達はこれでもかというほどバシャバシャとしぶきを上げ、まるで海の上にある噴水の中にいるようだった。

「なあ――」

クランチはこっそりとクラッシュに呼びかける。

「わっ、やめろ、ココ・・・えっ、何?」

「あのさ、ココって――」

「うん――」

「こういうときはさ――」

「うん――」

「可愛いよな」

「ん・・・・・・えっ!?」

クランチの言葉をクラッシュの脳が理解するのに少し時間がかかった。

クラッシュでも面食らってしまったようだった。

いきなり自分の妹が「可愛い」と言われると・・・

でも、否定は出来なかった。

いつも結わいている髪をほどき、肩よりも下までさらっと伸びている。

そして、その髪がなびくココの姿はクラッシュが見ても別人――別バンディクーと書くのが正しいかもしれないが――に見えた。

クラッシュはこんなココもいたのかと思ってしまった。


『灯台もと暗し』という言葉があるが、まさにその通りだったのだろう。

他の人に言われて、初めて身近の、とある事実に気付くことは良くあることだ。


クラッシュとクランチは、水をバシャバシャとはね飛ばすのも忘れ、まるで剥製のようにココを見つめていた。

ココは首を傾げて言った。

「お兄ちゃんもクランチも、どうしたの・・・急に固まっちゃって。しかも、鼻の下伸ばして・・・何に一目惚れしているのよ」

本人は、まるで気付いていなかったように振る舞った。

『振る舞った』ということは、クラッシュ達が自分に首ったけなのに気付いていたということだ。

良く知っている人が急に食い入るように自分を見つめてきたら、気持ち悪いったらない。

まだ石のようになっているクラッシュとクランチに、ココは水をぶっかけることで対処した・・・。



三人は海から上がり、パラソルの下に向かった。

このパラソルとイス、結構前からこの場所に置かれていた。

そのせいで、いつだったか大波に呑まれてバラバラになったことがある。


「あー、楽しかった♪」

ココは聞こえよがしに言った。

二人の目を醒まさせたかったのだ。

一日中見つめられたら、体に穴が開いてしまうかもしれない!

クラッシュとクランチはその「あー、楽しかった♪」を聞いて、いつものココに戻ったのだと悟った。

それっきり、食い入るようにココを見つめることは無かった。



ところで、この中で一人物静かにしているのがいた。

ココが最初に気付いた。

「アクアクさん・・・具合でも悪いの?さっきからずっと静かにしているけど・・・」

「アクアクは爺さんだからゆっくり休みたいんじゃないの?」

クラッシュは相変わらず能天気だ。

「いや、そういう訳じゃないんしゃが――」

アクアクは心配そうに言った。

「アクアク、何か隠しているんじゃないのか?まさか、またコルテックスの野郎か・・・?」

クランチが不安そうな、でも威勢のいい感じで言った。

びくつきを隠そうとしていたのかもしれない。

アクアクはヒソヒソ声で話し始めた。

他の三人は額をくっつける位近づかないと聞こえなかった。

「うむ・・・実はな・・・何だか誰かにずっと見られている気がするのじゃ・・・わしたちを、ずっと・・・

 気付いたのはさっきなんじゃが、どうも嫌な感じがするのじゃ。たまに森からガサカザ音もする。あれは普通の小動物の立てる音では無いし、原住民の立てる音でもなかろう。

 第一、あの者達はこちらには来ぬ。まさにイヤー(耳)にイヤー(嫌)な音が入ってくるのじゃ」

クラッシュ達は一瞬冬が来たかと思ったが、原因は別にあるようだった。

が、すぐに仕切り直して、ココが聞いた。

「じゃあ、私ストーカーされてるの?!そんな・・・恥ずかしいよ・・・」

恥ずかしいと言うココに、クラッシュは反応した。

「恥ずかしい?普段から凄いことをしてるくせに・・・忘れないぞ、オイラがダンスをしているときに爆弾で――グヘッ」

ココはクラッシュにカラテキックを入れて黙らさせた。

そして、顔を赤くしながら「あれはずっと前の話でしょ?今はもう、あんなことはしないわ」と熱っぽく言った。

(思いっきり暴力してるじゃん!・・・あ〜、痛い・・・可哀想なオイラのおなか。腫れちゃった――)

クラッシュは自分の中で自分を哀れみた。

その場に居るのが気まずくなったクランチは話題を変えるように言った。

「な・・・なあ、もし見張られてんだったらよ、家に戻ったほうがいいんじゃねぇか?」

「そうじゃの・・・そのほうがいいかもしれぬ」

「えっ、まだ日光浴も、サーフィンだってしてないのに?」

「クラッシュ、今はそれどころではない。善は急げ、じゃ!努力を怠らないカメは怠けウサギに勝つのじゃ!」

「何それ・・・まあいいや。分かったよ、逃げよう」

ココを先頭に、一行はクラッシュの家に戻った。

急ぎだったので、ビーチボールやサーフボードなど、そういったものはビーチに置きっぱなしにしていた。



それから「目覚めのビーチ」にミサイル発射口のついている潜水艦が到着するのに3分も無かった。

その潜水艦は、音も立てずに着岸する。

そして――その中から誰かが出てきた。

ヘンテコドッキリ島に上陸した潜水艦の乗組員の一人が地団駄を踏んで呟いた。

「クソッ、クソッ、クソッ!また取り逃がした!アイツらは油断していると聞いていたのに、誰もいないではないか!エヌ・ジンに新型ミサイルを造らせたのに、これでは・・・」

その男は白衣を着ていて、頭でっかち、極め付きは額の『N』のマーク、どこから見ても目立つ姿だ。

彼は怒っていた。