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クラッシュ・バンディクー 乱れあう絆
舞台はお馴染み、タスマニアのあたりにある、とある島。
今日もあのバンディクートリオ――クラッシュ、ココ、クランチの三人だ(本当は三匹というのが正しいのだろうけど、人と呼ぶに相応しい活躍をしているのには間違いない)――は平和な一日を迎える。
・・・はずだった。
しかし、日光浴をして、リンゴをいっぱい食べ、そういった夢はまたもや壊されることになる・・・。
そう、あの悪の科学者、コルテックス博士がクラッシュ達を静かに追い詰めていた。
このお話は、そんな一日の朝から始まります。
◆
Chapter 1 とある一日のはじまり
「くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・」
ここはタスマニアの『ヘンテコドッキリ島』、別名『ジャングルの島』にあるクラッシュの家。
今日もこの家から幸せそうな「いびき」の音が聞こえてくる。
もう時間は朝。もうじき起きる時間だろう。
太陽が地平線の向こうから朝の光を投げかけている。
その光が、赤い屋根の丸い家を照らし、その家を煌びやかに飾った。
間もなく、奥の部屋のドアが開いて、中からまだ目をトロンとさせた女の子が出てきた。
「・・・ん、う〜ん・・・ふゎぁ・・・あー、まだ寝たいよ・・・」
ココが起きてきた。
夕べは遅かったのだろうか、少し目の下に「くま」が出来ていた。
目を擦って、パチクリさせて、もう一度目を擦る。
まだ寝たいようだ。
それでも気持ちの良い布団から離れ、とある部屋へと向かった。
「クランチ?もう起きてるの?」
ココはクランチの部屋の扉に向かって呼びかける。
「おう、もう起きてるぜ!もう朝飯なのか?」
「え・・・いや、まだだけど。私、まだ起きたばっかり」
「そうかそうか。俺は今、基礎トレーニング中なんだ。残りはスクワットとバーベル上げと、あと――」
そんな言葉をココはちょっとだけ冷たく遮った。
「はいはい、朝ごはんが出来たらすぐに来てちょうだいね」
ココは今度はクラッシュを起こしに行く。
クラッシュは布団も無しに床で寝ていた。
それでも、気持ち良さそうに「くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・」を繰り返している。
ココは半ば呆れ気味に言った。
「お兄ちゃん、起きないの?今日は海に行くんじゃ無かったの?お兄ちゃん!」
無駄だった。
クラッシュはそれでも安らかに眠っていた。
ココはクラッシュを起こすのを諦めて、朝食作りに取りかかることにした。
いつもこれなのだ。
起きないのは分かっていた。
食べ物で釣らないと滅多に起きないのだ。
「さあて、今日は何にしようかな・・・?」
ココは、寝ているクラッシュをそのままに台所へと向かった。
それから30分程経って。
クラッシュの家の中に、いい匂いが漂い始める。
間もなく、ココがクラッシュとクランチを呼ぶ声が聞こえてきた。
「お兄ちゃ〜ん、クランチ〜、朝ごはんできたよ〜」
「なあ、クラッシュは聞いていたのか?まだ来ないじゃないか」
朝食の席でクランチはココに尋ねた。
どうも、二人だけだと変な感じがするのだ。
テーブルの上にはリンゴ料理と野菜が盛られている。
クランチは野菜ばっかり食べ、リンゴには目もくれない。
「クランチ、リンゴは食べないの?おいしいわよ、お通じだって――」
「あのさ、食事中に『お通じ』なんて言わないでもらえるか?それと、俺はダイエット中だ。リンゴなんていらないさ」
クランチはこう答えた。
ココの質問より、むしろ言動のほうが気になった様子だ。
そんな態度なんて無かったかのように、ツンとしながらココは言葉を返した。
「あら、リンゴだって体にいいのよ」
二人の間に、一瞬だけ沈黙が横切った。
クランチは急に「クラッシュを起こしてくる」と言って、朝食の席を離れた。
「はあ、やれやれ、だわ」
ココは呆れたように呟いたが、運よくクランチには聞こえなかった。
しかし、ココの考えは間違っていたようだ。
クランチは、本当にクラッシュを起こしに行ったようだった。
間もなく、まだ寝ぼけているように見えるクラッシュが、クランチとアクアクに連れられてココのところにきた。
ココは「あら、アクアクさんじゃない。おはよう。ところで、どうしたの、急に」と言い、
アクアクは「クランチが呼んだのじゃ、『クラッシュが起きねぇんだ、何とかならないか、アクアク』とな。
わしが『リンゴの山をおみやげに持ってきたぞよ』と言ったら、クラッシュのやつ、ガバッと起きて、あれはギネス並みじゃな」と答えた。
アクアクが喋っている間にも、クラッシュのわずかに開いていた目がとろんとなって、立ちながら「くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・くぴ〜、すか〜、ぐぅ〜・・・」を再び始めた。
「ちょっと、お兄ちゃんったら、また寝ちゃったの?」
ココは困ったような声を上げる。
昼寝のキングは、またしても眠りについた。
立ちながら寝ているのに、とても気持ちよさそうな、世界一幸せそうな顔をしている。
「仕方ないわ。クランチ、リンゴのパイをお皿ごとちょうだい」
クランチは渋々渡した。
いいようにこき使われているのが気に入らないのだ。
ココは、リンゴのパイをクラッシュの鼻に近づけながら言った。
「このリンゴのパイは私とクランチで全部食べちゃおうかしら。寝ているお兄ちゃんなんて放っておきましょう・・・」
そういった途端、クラッシュはまたガバッと起きて、「リンゴパイ?オイラにもくれよ・・・」と叫んだ。
そんな様子をみていたクランチとアクアクはちょっと恐ろしげに後ろを向いてヒソヒソ話を始めた。
「なあ、兄妹ってあんなもんなのか・・・?」
「妹に操られし兄・・・ココも小悪魔になったのう・・・」